発信者情報開示請求(以下「開示請求」といいます。)がなされると、サービスを利用した会社から「発信者情報開示に係る意見照会」(以下「意見照会」といいます。)が届くことがあります。
この意見照会は、サービスを利用している会社がいわゆるプロバイダの場合には書面で届くことが多いですが、これ以外の場合には「メールで意見照会」が届くことがあります。最近では、営業権侵害(例:規約違反による転売禁止)を理由とする意見照会が届くことが多くなっています。
ここでは、「メールで意見照会」が届いた場合の対応について、概説致します。
目次
1 発信者情報開示請求
意見照会を理解するためには、前提として発信者情報開示請求(以下「開示請求」といいます。)について知る必要があります。
開示請求とは、典型的には、匿名掲示板への書き込み、SNSでの発信、口コミレビューなどインターネット上の投稿について、発信者を特定するのに有用な情報(例:氏名住所等)の開示をプロバイダ等に求めるものです。
件数的には、誹謗中傷が多い印象ですが、開示請求ができるのはインターネット上で権利侵害が生じた場合となりますので、著作権侵害、プライバシー侵害、営業権侵害などであっても開示請求が可能となっています。
2 発信者に対する意見照会が必要となる場合とは
このような開示請求を受けたプロバイダ等は、発信者に対して、開示の請求に応じるかどうかについて意見を聴かなければならないものとされています。
すなわち、開示請求を受けたプロバイダ等は意見照会を行う法律上の義務があります。
具体的には、①発信者情報の開示に応じるかどうかという「同意or不同意」の意見だけではなく、②応じるべきではないとの意見である場合(①において不同意意見である場合。)には、その理由も聞かなければならないものとされています。
こうした照会は、冒頭で触れたように書面でなされることが多い印象ですが、書面ではなく、メールで行っても差し支えないこととなっています。
3 メールで意見照会がされたときの照会内容例
書面で照会がされても、メールで照会がされても、照会事項は同一であることが多いという印象ですが、メールで意見照会された場合には、概ね次のような記載があることが多いものと思われます。
- 意見照会元が開示請求を受けたこと
- プロバイダ責任制限法に基づく意見照会であること
- 14日以内にメールで回答をすること
- 14日以内に回答をしないときには、開示には不同意として扱うこと
- 意見は尊重するものの法律に従い開示せざるを得ない場合があること
このとき、開示請求者からの申告内容として、次のような事項も併せて知らされることがあります。
- 開示請求者
- 権利侵害が生じている箇所
- 権利が明らかに侵害されたとする理由:規約違反による営業権侵害など
- 開示を受けるべき正当な理由:損害賠償請求のために必要であるため
- 開示請求を受けている発信者情報:氏名、住所、電話番号及びメールアドレス
4 メールで「意見照会」が届いた場合の対応方法
メールで「意見照会」が届いた場合の対応方法としては、書面で届いた場合と同様、(1)発信者情報(氏名・住所・メールアドレスなど)の開示に同意をする、(2)発信者情報の開示に同意をしない、(3)何も対応をしない、といった対応方法が考えられます。
(1)発信者情報の開示に同意をする場合
発信者情報の開示に同意をする場合には、開示請求を行っている者に対して、発信者情報が開示されます。その結果、開示請求者から損害賠償請求といった民事上の責任追及がなされることが想定されます。
そのため、開示に同意をするかどうかは慎重に判断をする必要があります。同意をする場合としては、例えば、改めて確認したところ、ご自身でも問題のある行動をとってしまったことに気付いたため、謝罪をして責任を取りたいという場合が考えられます。
ご自身の行動に問題があるかどうか第三者の意見が聞きたいという場合には、弁護士にご相談することが考えられます。また、開示請求者との間で、民事上・刑事上の示談交渉を行ってほしい場合にも、弁護士に依頼することが考えられます。
(2)発信者情報の開示に同意をしない場合
発信者情報の開示に同意をしない場合には、同意しない理由を十分に記載した上で、プロバイダ等に回答をする必要があります。プロバイダ等は開示請求の当事者であるものの、自ら問題となっている行動をとったわけではないため、その背景が分かりません。そこで、開示請求に対して適切に対応してもらうためには、意見照会に対して十分な回答書を提出する必要があります。
もっとも、回答書の提出は2週間の期限が付けられていることが多いなど、時間的な余裕はありません。そのため、意見照会の作成を弁護士に依頼することが考えられます。
なお、「同意をしない」という選択をした場合において、プロバイダ等が任意に発信者情報を開示することなく、裁判によって開示相当となったときには、その裁判に要した費用に相当する金額が後の損害賠償訴訟等において認められる可能性があります。そのため、当事務所では、単に後で訴えられなくない/内容証明で賠償請求をされたくないという理由で不同意とすることは避けた方がよいとアドバイスをしています。現実に問題のある行動をとってしまったときには、相応の責任をとらなければならないという現実に向き合ってもらう必要があります。
(3)何も対応をしない場合
意見照会に対して回答をしない場合には、行動の背景がプロバイダに伝わらないこととなります。
5 発信者情報が開示された後の流れ
発信者情報が開示された場合、開示請求者から、損害賠償請求といった民事上の責任追及などが行われることが考えられます。
開示請求者側に弁護士が就任している場合が想定でき、個人での対応が難しい側面もありますので、弁護士に相談することをおすすめしています。
6 まとめ
メールで「意見照会」が届いたときには、客観的な意見を聴いたうえで、今後の方針を決定することをお勧めしています。
なお、意見照会に関するご相談は1回あたり1万1000円(税込)で受けています(ご相談ご希望の方は、まずはホームページのお問い合わせ欄のメールより、お問い合わせ下さい)。