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2024年改正「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(情プラ法)への法務上の対応

2024-07-31
削除・開示請求

2024年5月に改正された「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(以下「情プラ法」といいます。旧プロバイダ責任制限法です。)については、事業者側に一定事項の対応が求められています。

ここでは、事業者側が対応しなければならない要点をまとめています。

目次

【記事のポイント】

✓改正法への対応は、総務大臣によって指定される大規模プラットフォーム事業者において必要。

✓大規模プラットフォーム事業者は、削除申請への対応の迅速化に対する法務上の対応として、一定の義務に対応する必要があり、必要に応じて、削除申請に対する対応フローの見直しなどが必要

✓大規模プラットフォーム事業者は、削除等の運用状況の透明化に対する法務上の対応として、一定の義務に対応する必要があり、必要に応じて、運用指針の見直しなどが必要

1. 2024年改正により対応を求められる事業者の範囲

(1)新たな規律の及ぶ大規模プラットフォーム事業者

2024年改正により、主に、総務大臣が指定する大規模プラットフォーム事業者を対象として、①削除申請への対応の迅速化と②削除等の運用状況の透明化といった事項が新たに設けられることとなりました。

ここで「総務大臣が指定する大規模プラットフォーム事業者を対象として」とあるように、今回の改正により設けられた規律は、SNSや匿名掲示板などのサービスを提供しているすべての事業者に及ぶものではなく、そのうち、総務大臣により大規模プラットフォーム事業者として指定された事業者等に及ぶこととなります(20条)。

大規模プラットフォーム事業者とは、法律上は「大規模特定電気通信役務提供者」とは、「第二十条第一項の規定により指定された特定電気通信役務提供者をいう」(2条14号)ものとされています。

この20条1項は、次のような定めです(下線は執筆者によります。)。

(大規模特定電気通信役務提供者の指定)

第二十条

総務大臣は、次の各号のいずれにも該当する特定電気通信役務であって、その利用に係る特定電気通信による情報の流通について侵害情報送信防止措置の実施手続の迅速化及び送信防止措置の実施状況の透明化を図る必要性が特に高いと認められるもの(以下「大規模特定電気通信役務」という。)を提供する特定電気通信役務提供者を、大規模特定電気通信役務提供者として指定することができる。

一当該特定電気通信役務が次のいずれかに該当すること。

当該特定電気通信役務を利用して一月間に発信者となった者(日本国外にあると推定される者を除く。ロにおいて同じ。)及びこれに準ずる者として総務省令で定める者の数の総務省令で定める期間における平均(以下この条及び第二十四条第二項において「平均月間発信者数」という。)が特定電気通信役務の種類に応じて総務省令で定める数を超えること

当該特定電気通信役務を利用して一月間に発信者となった者の延べ数の総務省令で定める期間における平均(以下この条及び第二十四条第二項において「平均月間延べ発信者数」という。)が特定電気通信役務の種類に応じて総務省令で定める数を超えること

当該特定電気通信役務の一般的な性質に照らして侵害情報送信防止措置(侵害情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われるものに限る。以下同じ。)を講ずることが技術的に可能であること

当該特定電気通信役務が、その利用に係る特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害が発生するおそれの少ない特定電気通信役務として総務省令で定めるもの以外のものであること。

2~4略

すなわち、ⅰ「侵害情報送信防止措置の実施手続の迅速化及び送信防止措置の実施状況の透明化を図る必要性が特に高いと認められるもの(以下「大規模特定電気通信役務」という。)を提供する特定電気通信役務提供者」の中から、ⅱ第1号(平均月間発信者数又は平均月間延べ発信者数が総務省令で定められた水準を超えること)、第2号(送信防止措置が技術上可能であること)並びに第3号(総務省令で定められた除外事由に該当しないこと)のいずれにも該当するものが、ⅲ総務大臣による指定の対象となります。

(2)自社が大規模プラットフォーム事業者に該当するかの確認

そこで、まずは自社が大規模プラットフォーム事業者に該当するか否かを確認する必要があることとなります。

もっとも、前記のように、大規模プラットフォーム事業者に該当する要件を定める20条では、その詳細な基準について総務省令で定めるものとされているところ、本記事の執筆時点(24年7月30日時点)では総務省令は制定されていません。

そのため、現時点では自社が大規模プラットフォーム事業者に該当するのかどうかについて、総務省の担当部局に問い合わせを行うことで確認を行うことが考えられます。

もっとも、権利侵害情報、有害情報、偽情報などが頻発しているものとして従前から行政による公開の会議でヒアリングを受けているような事業者については、大規模プラットフォーム事業者に該当することが予想されます。

なお、大規模プラットフォーム事業者に該当しない場合であっても、改正法が成立した経緯を考慮すれば、できる限り改正法に準拠した対応が望ましいといえます。

2. ①削除申請への対応の迅速化に対する法務上の対応

事業者側には、①(権利侵害情報に対する)削除申請への対応の迅速化に対する法務上の対応として、以下のような義務に対応する必要があり、必要に応じて、削除申請に対する対応フローの見直しなどが必要となります。

(1)削除申請を受け付ける方法(削除申請方法)を定め、これを公表する義務(22条) への対応

削除申請先の窓口の所在がわかりにくいといった課題に対応するために、削除申請の方法及び申請先の窓口を分かりやすく定めて公表することが求められています。

文字通り、削除申請の方法及び申請先の窓口を分かりやすく定めて公表することが求められています。

その際には、削除申請を受けた場合、受付の通知が申請者に対してなされないと正式に申請が受理されたかどうかが分からないことから、削除申請者に対して受付日時が明らかになるようにすることが必要です(22条2項3号)。

例えば、申請を受け付けると同時に、「〇年〇月〇日〇時〇分」申請を受け付けましたというようなメッセージを表示させることが考えられます。

(2)削除申請に対する調査義務(23条)への対応

削除申請があった場合、侵害情報の流通によって当該被侵害者の権利が不当に侵害されているかどうかについて、遅滞なく必要な調査を行う義務があります。

これは削除申請があった場合について、後述(4)の処理期間内に迅速な判断を行うためのフローを確立する必要があるといえます。

(3)削除申請に関するプラットフォーム事業者側の運用体制の整備(24条)への対応

上記(2)の調査のうち、専門的な知識経験を要する削除申請の調査を適正に行わせるため、インターネット上の権利侵害情報への対処にについて十分な知識経験を有する者の中から侵害情報調査専門員を総務省令で定められた数以上選任する義務があります。

ここでいう「数」は、今後制定される総務省令によって定められることから、総務省令の動向に注意する必要があります。

なお、とくにインターネット上における不適切な投稿は、海外企業の運営するプラットフォームサービスにおいて問題となることが多いことを踏まえ、大規模プラットフォーム事業者として指定された事業者は、自身が提供するサービスの特性を踏まえつつ、日本の文化・社会的背景に明るい人材を配置することが期待されています。

(4)削除申請に対する処理期間の定め及び判断結果等の通知義務(25条)への対応

上記(1)の方法に従った削除申請がなされた場合には、必要な調査を行ったうえで、原則として、申請を「受けた日から十四日以内の総務省令で定める期間内に」削除を行う/行わないといった判断を行い、申請者に対して削除を行ったときにはその旨を、削除を行わなかったときにはその旨及びその理由を、通知する必要があります

このように、原則として、所定の期間内に、プラットフォーム事業者が削除を行う/行わないといった判断を行ったうえで、一定の事項を申請者に通知することが必要となりますが、速やかな処理体制を整える必要があるといえます。

ここで、削除申請の原則的な処理期間は削除申請を「受けた日から十四日以内の総務省令で定める期間内に」とされています。

現時点では総務省令が定められていないことから具体的な処理期間は明らかではないものの、「プラットフォームサービスに関する研究会」(総務省開催)の「第三次とりまとめ」において、「誹謗中傷等の権利侵害について事業者が認識した事案においては実務上一週間程度での削除が合理的であると考えられること等を踏まえれば、一週間程度とすることが適当である。」(同11頁)とされていることから、原則的には14日よりも短い期間での処理が要請される可能性があります。

(申出者に対する通知)

第二十五条 大規模特定電気通信役務提供者は、第二十三条の申出があったときは、同条の調査の結果に基づき侵害情報送信防止措置を講ずるかどうかを判断し、当該申出を受けた日から十四日以内の総務省令で定める期間内に、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める事項を申出者に通知しなければならない。

ただし、申出者から過去に同一の内容の申出が行われていたときその他の通知しないことについて正当な理由があるときは、この限りでない。

当該申出に応じて侵害情報送信防止措置を講じたときその旨

当該申出に応じた侵害情報送信防止措置を講じなかったときその旨及びその理由

3. ②削除等の運用状況の透明化に対する法務上の対応

事業者側には、②削除等の運用状況の透明化に対する法務上の対応として、以下のような義務に対応する必要があり、必要に応じて、運用指針の見直しなどが必要となります。

(1)削除指針の公表義務等(26条)への対応

プラットフォーム事業者は、一般に削除指針(利用規約、ポリシーなどともいいます。)を制定し、これに基づいて削除申請に対する処理を行っているのが現状ですが、この削除指針について公表することが求められています。

この削除指針についてはどのような内容でもよいというものではなく、情プラ法に定める一定の事項(削除等の対象となる情報の種類をできる限り具体的に定めるなど)に適合していることが望まれています(同条2項)。

この削除指針は、「当該送信防止措置を講ずる日の総務省令で定める一定の期間前までに公表されていなければならない」ものとされています(同条1項)。

したがって、情プラ法に則った削除指針となっているかどうかについて、見直しをする必要があります。

(2)削除を行った場合における発信者に対する通知等の措置を行う義務(27条)への対応

プラットフォーム事業者が投稿の削除を行う場合には、投稿を削除された発信者に対して、原則として、投稿の削除を行った旨及びその理由等を通知又は発信者が容易に知り得る状態に置くことが求められています。

したがって、通知等に係るフローを策定または見直す必要があります。

(3)運用状況を公表する義務(28条)への対応

プラットフォーム事業者は、削除申請の迅速化を図るための義務及び透明化を図るための義務に基づき講ずべき措置について、一定の事項(例:削除申請の受付状況・回答件数や発信者への通知件数等)について、毎年一回、総務省令で定めるところにより、運用状況の公表を行う義務があります。

公表事項は、情報プラ法28条に定められていますが、送信防止措置の実施状況等について自ら行った評価を公表する必要があるなど(同条5号)、どのように実施状況を集計し、公表するのかについても、今から準備をする必要があります。

4. 改正法への対応時期

改正法の施行時期は、「公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。」(改正法附則第1条)とされていることから、遅くとも2025年5月頃までとなります。

それまでの間に、改正法の施行にあたって政省令に委任されている事項(例:侵害情報調査専門員の数など)について、総務省令が整備されることとなります。

そこで、総務省令の整備状況を確認しつつ、改正法への対応を行っていくこととなります。

著者情報

大澤 一雄

弁護士
大澤 一雄

上智大学法科大学院卒業後、司法修習修了。

2022年に大澤法律事務所開設。

趣味は水泳。

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