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令和6年(2024年)プロバイダ責任制限法改正法案について②

2024-03-12
削除・開示請求

令和6年(2024年)3月1日、プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律案(以下「改正法案」といいます。)が閣議決定され、第213回国会(常会)に提出されました。

ここでは、プロバイダ責任制限法について、どのような事項を改正することが政府により提案されているのか、その概要をみていきたいと思います。

国会での審議に応じて、改正事項が修正される可能性があることにはご留意ください(この記事は2024年3月11日に作成をしました。)。

目次

【記事のポイント】

✓プロバイダ責任制限法は、「情報流通プラットフォーム対処法」という通称名に変更することが提案されています。

✓インターネット上における誹謗中傷等に対する対応策としては、①投稿の削除と②発信者の特定であるところ、今回の改正は①に関する事項です。

✓主な改正事項は、削除申出への対応の迅速化と削除等に関する運用状況の透明化です。

✓全てのプラットフォーム事業者が改正事項の対象ではなく、大規模プラットフォーム事業者に一定の措置を義務付けるものです。

✓改正事項の実効性を担保するため、報告徴収、勧告・命令といった措置のほか、命令違反に対する罰則等が定められています。

1. プロバイダ責任制限法とは

プロバイダ責任制限法とは、法律の題名を「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といい、「プロバイダ責任制限法」とは通称名です。

プロバイダ責任制限法は、①インターネット上の違法な情報への対策としてプロバイダ等による自主的な対応を促す(3条・4条)とともに、②プロバイダ等の保有する発信者情報について被害を受けたと主張する者に開示するための制度(5条)を創設するものとして、平成13年(2011年)に制定され、翌14年(2012年)に施行されたものです。

このうち、①とは、一定のルールを定めることで、プロバイダ等によるインターネット上における不適切な投稿への削除等の自主的な対応を促すものです。

また、②とは、インターネット上における不適切な投稿が匿名でなされた場合において発信者の特定に資する発信者情報(氏名・住所等)の開示を求めることのできる発信者情報開示請求権です。

近年(2021年)では、②(発信者情報開示請求権)について、新たな裁判手続の創設などの大規模な改正がなされました。

2. 改正の背景

プロバイダ責任制限法の改正を行う理由は、「近年、インターネット上のSNS等の特定電気通信役務を利用して行われる他人の権利を侵害する情報の流通による被害が深刻化する一方、情報発信のための公共的な基盤としての特定電気通信役務の機能が重要性を増していることに鑑み、大規模なSNS事業者等を大規模特定電気通信役務提供者として指定し、侵害情報送信防止措置の実施手続の迅速化及び送信防止措置の実施状況の透明化を図るための義務を課す等の措置を講ずる必要がある。」(「総務省作成の法律案理由」より引用)とされています。

すなわち、SNS等が表現の自由や公的な情報を広く迅速に伝えるといった観点から重要なものである一方、X(旧Twitter)等のSNS等において、例えば誹謗中傷が行われ、ときに深刻な結果をもたらすことは多くの方が実感されているところだと思います。

こうした現代のインターネット社会の影の部分により対応するために「侵害情報送信防止措置の実施手続の迅速化」(=削除手続)や「送信防止措置」の実施状況の透明化を図るための義務」(=削除手続の透明化)について、従来よりも進んだ法的対応を行おうとするものと考えることができます。

3. 法律の題名変更

では、どのような改正事項が挙げられるでしょうか。

まず法律の題名変更が提案されています。

プロバイダ責任制限法とは、法律の題名を「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といい、通称名を「プロバイダ責任制限法」といいます。

平成13年(2011年)に制定されて以降、長年このような名称が使用されてきましたが、改正法案では、法律の題名を「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」と変更することが提案されています。

これに伴い、通称名は「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」とすることが提案されています。

法律の題名変更の理由ですが、今回の改正事項が、大規模プラットフォーム事業者に、①削除申出への対応の迅速化、②削除等に関する運用状況の透明化に関する措置を義務付けるなど、発信者情報の開示等にとどまらない内容となったことを踏まえたものとされています。

【法律の題名・通称名の新旧比較】

現行法改正法案
法律の題名特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律
通称名プロバイダ責任制限法情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)

4. 改正法案の主な項目

改正法案を確認すると、主に第5章(大規模特定電気通信役務提供者の義務)及び第6章(罰則)が新設され、これまでの全19条の条文数から全38条の条文数へと条文数が2倍になっております。

ここでは、規定順を確認した上で、その概要を確認したいと思います。

(1)規定順

(2)【現行法と令和6年改正法案との規定順の比較】

現行法の規定順令和6年改正法案の規定順
第1章 総則(第1条・第2条)
第2章 損害賠償責任の制限(第3条・第4条)
第3章 発信者情報の開示請求等(第5条~第7条)
第4章 開示命令事件に関する裁判手続(第8条~第19条)
第1章 総則(第1条・第2条)
第2章 損害賠償責任の制限(第3条・第4条)
第3章 発信者情報の開示請求等(第5条~第7条)
第4章 開示命令事件に関する裁判手続(第8条~第19条)
第5章 大規模特定電気通信役務提供者の義務
第20条 大規模特定電気通信役務提供者の指定
第21条 大規模特定電気通信役務提供者による届出
第22条 被侵害者からの申出を受け付ける方法の公表
第23条 侵害情報に係る調査の実施
第24条 侵害情報調査専門員
第25条 申出者に対する通知
第26条 送信防止措置の実施に関する基準等の公 表
第27条 発信者に対する通知等の措置
第28条 措置の実施状況等の公表
第29条 報告の徴収
第30条 勧告及び命令
第31条 送達すべき書類
第32条 送達に関する民事訴訟法の準用
第33条 公示送達
第34条 電子情報処理組織の使用
第6章罰則(第35条~第38条)

(2)削除申出への対応の迅速化

権利侵害情報(例:SNS上における名誉を毀損する投稿)に関する削除申出への対応の迅速化策として、ⅰ削除申出窓口・手続の整備・公表、ⅱ削除申出への対応体制の整備(十分な知識経験を有するものの選任等)及びⅲ削除申出に対する判断・通知、が改正事項として確認できます。

ⅰ 削除申出窓口・手続の整備・公表

一般人にとって削除申出の窓口が分かりづらく申出が難しいといった課題に対応するため、プラットフォーム事業者は、被害者から削除申出(例:SNS上で自分の名誉が毀損されているので、該当の投稿を削除してほしいといった申出)を受け付ける方法を公表しなければならないものとされています(改正法案22条)。

これまで削除申出を行ったとしても受付を行った旨の返信がないプラットフォームもあり、正しく申出が受け付けられたかどうかが分からないため不安であるという声も踏まえて、申出の受理日時が明らかになるようにするなど一定の受付方法であることが求められています。

ⅱ 削除申出への対応体制の整備

プラットフォーム事業者は、削除申出があったときには、権利が不当に侵害されているかどうかについて遅滞なく必要な調査を行わなければならないとされています(改正法案23条)。

その際、権利侵害への対処に関して十分な知識経験を有する者のうちから、侵害情報専門員を選任しなければならないなど、削除申出への対応体制の整備が求められています(改正法案24条)。

ⅲ 削除申出に対する判断・通知

削除申出を行っても通知がない場合があり削除されたかが分からない/迅速な削除を求めているという課題に対応するため、プラットフォーム事業者は、削除申出に対しては、削除するかどうかを判断し、一定期間内に、原則として削除した/しないといった結果等を申出者に通知しなければならないものとされています(改正法案25条)。

この一定期間とは、削除申出を受けた日から14日以内の総務省令で定める期間とされています。

(3)削除等に関する運用状況の透明化

削除等に関する運用状況の透明化として、ⅰ削除基準の策定・公表(運用状況の公表を含む)、ⅱ投稿を削除した場合における発信者への通知、が改正事項として確認できます。

ⅰ 削除基準の策定・公表

プラットフォーム事業者の削除基準の内容が抽象的で何が削除されるかが分からないという課題に対応するため、プラットフォーム事業者は、削除基準を策定し、これを公表しなければならないものとされています。

この策定にあたっては、できる限り具体的に定めることや容易に理解することのできる表現を用いていることなどが求められています(改正法案26条)。

この基準の公表時期は総務省令で定める一定の期間前までとされています。

ⅱ 投稿を削除した場合における発信者への通知

プラットフォーム事業者は、投稿を削除した場合には、原則として、削除を行ったこと及びその理由を発信者に通知等しなければならないものとされています(改正法案27条)。

また、削除の実施状況等について、毎年1回、一定事項の公表が義務付けられています(改正法案28条)。

(4)改正事項の対象事業者

以上のような、(2)削除申出への対応の迅速化及び(3)削除等に関する運用状況の透明化といった措置の義務付けは、全てのプラットフォーム事業者ではなく、大規模プラットフォーム事業者が対象となります。

措置の義務付け対象となる具体的なプラットフォーム事業者は、改正法施行後において、総務大臣による指定等により明らかになることとなります。

その指定の基準については改正法案20条において規定がありますが、詳細については総務省令に委任されています。

(5)改正事項の実効性確保のための措置

改正事項の実効性確保のための措置として、総務大臣による大規模プラットフォーム事業者に対する報告徴収、勧告・命令といった措置のほか、命令違反に対する罰則等が定められています。

5. まとめ

今後、衆参の総務委員会での審議ののち本会議での議決を経ていくこととなりますが、その推移を見守りたいと思います。

執筆者

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弁護士
大澤 一雄

上智大学法科大学院卒業後、司法修習修了。

2022年に大澤法律事務所開設。

趣味は水泳。

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