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令和6年(2024年)プロバイダ責任制限法改正法案について①

2024-02-05
削除・開示請求

令和6年(2024年)プロバイダ責任制限法改正法案について①

令和6年(2024年)の第213回国会(常会)において、プロバイダ責任制限法が改正される可能性があります。

ここでは、プロバイダ責任制限法のこれまでの改正事項や改正法案の提出時期等について説明致します。

なお、本記事は、インターネット上で確認できる現時点(2024年2月4日)での情報に基づくことにご留意ください。

目次

1. プロバイダ責任制限法とは

プロバイダ責任制限法とは、正式名称を「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(注1)といい、「プロバイダ責任制限法」とは通称名です。

正式名称が長いこともあり、一般にプロバイダ責任制限法と呼ばれることが多いことから、本記事でもプロバイダ責任制限法と呼ぶこととします。

プロバイダ責任制限法は、①インターネット上の違法な情報への対策としてプロバイダ等による自主的な対応を促す(3条・4条)とともに、②プロバイダ等の保有する発信者情報について被害を受けたと主張する者に開示するための制度(5条)を創設するものとして、平成13年(2011年)に制定され、翌14年(2012年)に施行されたものです。

このうち、①とは、一定のルールを定めることで、プロバイダ等によるインターネット上における不適切な投稿への削除等の自主的な対応を促すものです。

また、②とは、インターネット上における不適切な投稿が匿名でなされた場合において発信者の特定に資する発信者情報(氏名・住所等)の開示を求めることのできる発信者情報開示命令制度(開示命令手続を含む。)を指しています。

注1. 正式名称を「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」から変更する予定であるとの報道もありましたので、今回の改正により名称そのものが変更となる可能性があります。

2.これまでの改正事項

前記のとおり、プロバイダ責任制限法は、平成13年(2001年)に成立しています。

プロバイダ責任制限法及び総務省令の改正経緯等をまとめると、次のとおりです。

【プロバイダ責任制限法及び総務省令の改正経緯等】

年月プロバイダ責任制限法の改正状況等総務省令の改正状況等
平成13年
(2001年)
・プロバイダ責任制限法成立制定時の開示対象
・氏名、名称
・住所
・電子メールアドレス
・IPアドレス及びタイムスタンプ
平成14年
(2002年)5月
・プロバイダ責任制限法施行
平成23年
(2011年)5月
①総務省令の改正【開示対象の拡大】
・利用者識別符号
・SIMカード識別番号
・これらに係るタイムスタンプ
平成25年
(2013年)5月
・プロバイダ責任制限法改正
→令和3年改正前の3条の2(改正後の4条)
【情報削除のに関する選挙期間中の特例】
平成26年
(2014年)11月
・リベンジポルノに関する情報削除に係るプロバイダ責任制限法の特例
(私事性的画像記録の提供による被害の防止に関する法律4条)
平成27年
(2015年)12月
②総務省令の改正【開示対象の拡大】
・IPアドレスと組み合わされたポート番号
平成28年
(2016年)3月
③総務省令の改正【表記の統一】
・「IPアドレス」を「アイ・ピー・アドレス」へと表記の統一
令和2年
(2020年)8月
令和3年
(2021年)4月
・改正プロバイダ責任制限法成立
【発信者情報の開示請求に関する裁判手続(被訟手続)の創設等】
令和4年
(2022年)3月
・最高裁判所規則制定
(発信者情報開示命令事件手続規則)
同年
(2022年)4月
・総務省令の改廃制定
(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則)
同年
(2022年)10月
・令和3年改正法施行
令和6年
(2024年)
2月下旬
・第213回通常国会(常会)へのプロバイダ制限法の一部を改正する法律案の提出(?)
※大澤一雄著「発信者情報開示命令の実務」(2022年、商事法務)に追記

3.プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律案の内容(予想)

(1)概要

プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律案(以下「改正法案」といいます。)の具体的内容ですが、「近年、インターネット上のSNS等の特定電気通信役務を利用して行われる他人の権利を侵害する情報の流通による被害が深刻化する一方、情報発信のための公共的な基盤としての特定電気通信役務の機能が重要性を増していることに鑑み、大規模なSNS事業者等を大規模特定電気通信役務提供者(仮称)として指定し、侵害情報送信防止措置(仮称)の実施手続の迅速化及び送信防止措置(仮称)の実施状況の透明化を図るための義務を課す等の措置を講ずる。」ものとされています(注2)。

X(旧Twitter)等のSNSサービスにおいて、例えば他人の名誉を毀損したり、侮辱する投稿が多くなされ、ときに深刻な結果をもたらすことは多くの方が実感されているところだと思います。

こうした現代のインターネット社会の影の部分により対応するために「侵害情報送信防止措置(仮称)の実施手続の迅速化」(=削除手続)や「送信防止措置(仮称)の実施状況の透明化を図るための義務」(=削除手続の透明化)について、従来よりも進んだ法的対応を行おうというものです。

(2)改正項目

では、具体的にはどのような改正が予想されるのでしょうか。

現時点では、改正法案の内容が公表されていないことから、正確なところは分かりません。

もっとも、改正法案は、総務省の開催している「プラットフォームサービスに関する研究会」における「第三次とりまとめ」(※3)を踏まえて立法化されます。

そこで、同「とりまとめ」をもとに、改正事項の予想を行うと、概ね次のような事項になるのではないかと考えております(以下の括弧書部分は同「とりまとめ」を引用したものです。)。

なお、研究会の経緯から、あくまで前記①「インターネット上の違法な情報への対策としてプロバイダ等による自主的な対応を促す」ことが対象であり、前記②の発信者情報開示命令制度の改正は含まれていないものと考えられます。

Ⅰ. プラットフォーム事業者(注4)の対応の迅速化に係る規律

ⅰ. 措置申請窓口の明示

インターネット上における不適切な投稿について削除申請等を行うための削除申請の窓口や手続の整備の一環として、申請窓口の所在を分かりやすく明示することです。

現在でも、インターネット上に削除申請のための窓口が設置されていることがありますが、この設置場所をより分かりやすくすることが考えられます。

ⅱ. 受付に係る通知

プラットフォーム事業者が削除申請等を受けた場合、受付の通知が申請者に対してなされないと正式に申請が受理されたかどうかが分からないことから、申請を受け付けた旨の通知を行うことが考えられます。

ⅲ. 運用体制の整備

インターネット上における不適切な投稿は、海外企業の運営するプラットフォームサービスにおいて問題となることが多いです。

そこで、「プラットフォーム事業者は、自身が提供するサービスの特性を踏まえつつ、我が国の文化・社会的背景に明るい人材を配置すること」が考えられます。

ⅳ. 削除等の申請の処理に関する期間の定め

削除等の申請に対する標準処理期間を定めることが考えられます。

「基本的には、プラットフォーム事業者に対し、一定の期間内に、削除した事実又はしなかった事実及びその理由の通知を求め」、「発信者に対して意見等の照会を行う場合や専門的な検討を行う場合、その他やむを得ない理由がある場合には、一定の期間内に検討中である旨及びその理由を通知した上で、一定の期間を超えての検討を認めることが」考えられます。

この一定の期間については、1週間程度が想定されます。

ⅴ. 判断結果及び理由に係る通知

削除等の申請に対してプラットフォーム事業者が削除/削除しないといった判断を行った場合には、原則として、その結果を通知し、削除しないという判断の場合にはその理由も通知することが考えられます。

ⅵ. プラットフォーム事業者の対応の迅速化に係る規律の対象範囲

全てのプラットフォーム事業者ではなく、権利侵害情報の流通が生じやすい不特定者間の交流を目的とするサービスのうち、一定規模以上のものに限定した規律となることが考えられます。

また、対象となる情報については、権利侵害情報は当然含まれますが、これに加えて、個別の行政法規に抵触する違法情報や有害情報は諸々の理由から対象外となることが考えられます。

Ⅱ. プラットフォーム事業者の運用状況の透明化に係る規律

ⅰ. 削除指針

プラットフォーム事業者は、利用規約やポリシーを制定して削除等を行っています。

もっとも、その基準が(海外事業者については)日本の法令や実態に即していない、または基準が不透明であるとの指摘があることから、削除等の判断基準や手続に関する「削除指針」を策定・公表させることが考えられます。

ⅱ. 発信者に対する説明

プラットフォーム事業者が投稿の削除等を行うときには、発信者に対して、原則として、投稿の削除等を行った旨及びその理由を説明することが考えられます。

ⅲ. 運用状況の公表

一定の重要事項について、プラットフォーム事業者の取組や削除指針に基づく削除等の状況を含む運用状況の公表を、プラットフォーム事業者に対して、求めることが考えられます。

ⅵ. プラットフォーム事業者の運用状況の透明化に係る規律の対象範囲

対象となるプラットフォーム事業者は前記Ⅰⅵと同様であり、対象となる情報は削除等の対象となる全ての情報となることが考えられます。

注2  総務省HPから確認のできる報道資料の記載を転記したものです。

注3 正確に言うと、同研究会に設置された「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」でのとりまとめを踏まえて、その親会である研究会においてとりまとめられたものです。

注4 「とりまとめ」によれば、不特定の者が情報を発信しこれを不特定の者が閲覧できるサービスを「プラットフォーム」といい、このようなサービスを提供する者を「プラットフォーム事業者」という、とされています。

4. プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律案の通常国会への提出時期

気になるプロバイダ責任制限法の一部を改正する法律案の通常国会への提出時期ですが、法律の所管省庁である総務省のHPを見ると、令和6年1月26日時点で、「2月下旬」とされています。

5. まとめ

改正法案は、主に削除手続等について公法的な改正を行うものではないかと考えておりますが、具体的内容が明らかになった際に、時間が許せば追加の記事を作成することを考えております。

※2024年2月11日に記事を一部修正しました。

以上

著者情報

大澤 一雄

弁護士
大澤 一雄

上智大学法科大学院卒業後、司法修習修了。

2022年に大澤法律事務所開設。

趣味は水泳。

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