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令和6年(2024年)改正「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(情プラ法)(旧プロバイダ責任制限法)の概要について

2024-07-19
削除・開示請求

プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律案(以下「改正法案」といいます。)が令和6年(2024年)3月1日に、閣法第34号として第213回国会(常会)に提出されました。

その後、衆参両議院での審議を経て、5月10日に成立し、同月17日に令和6年法律第25号として公布されました。

ここでは、改正されたプロバイダ責任制限法(情プラ法)の概略をやや詳細に確認したいと思います。

目次

1. プロバイダ責任制限法改正の背景

(1)プロバイダ責任制限法とは

プロバイダ責任制限法は、2024年の改正前において、主に、①インターネット上の違法な情報への対策としてプロバイダ等による自主的な対応を促す(第2章:損害賠償責任の制限)とともに、②インターネット上の権利侵害情報に対して発信者の特定に資する発信者情報(例:IPアドレス、電話番号、氏名・住所)の開示を求めることのできる発信者情報開示請求権(第3章)及び③これを行使するための開示命令手続(第4章)を定めていました。

(2)改正の背景

誹謗中傷をはじめとするインターネット上の違法・有害情報は社会問題となっており、近年では、プロバイダ責任制限法改正による開示請求に係る裁判手続の迅速化、刑法改正による侮辱罪の法定刑の引上げなどがなされています。

もっとも、誹謗中傷等の被害にあった方からは投稿削除を行いたいという要望が多いです。

投稿削除については、これまで事業者の自主的取組に委ねられてきたものの、課題が多く存在しており、その自主的取組には限界が見られる状況となっています(「プラットフォームサービスに関する研究会第三次とりまとめ」(総務省:令和6年1月)7頁以下参照)。

こうした状況を背景に、改正法案が2024年3月1日に、第213回国会(常会)に提出されて、5月10日に改正法案が成立しました。

(3)改正による追加事項

改正により上記①から③までの事項に加えて、総務大臣が指定する大規模プラットフォーム事業者を対象として、④削除申請への対応の迅速化(注1)と⑤削除等の運用状況の透明化といった事項が新たに規定されることとなりました。

また、新たな規律の追加のみならず、形式事項として、法律の題名変更がされていますので、題名変更を確認したうえで、改正の具体的内容について、確認をすることとします。

主な改正内容
1【改正法による規律の対象(=第5章及び第6章の規律の対象者)】
総務大臣により指定された大規模特定電気通信役務提供者(大規模なSNS事業者等)が規律の対象
2【削除申請への対応の迅速化】
削除申請への対応の迅速化として、大規模特定電気通信役務提供者は、削除申請を受け付ける方法を公表し、必要な体制を整備して削除についての調査を行うとともに、一定期間内にその結果等を申出者に通知しなければならないなど
3【削除等の運用状況の透明化】
削除等の実施状況の透明化として、削除等の実施に関する基準を定め、公表するとともに、削除等を行ったときは、原則としてその旨及びその理由を発信者に通知しなければならないなど

2. 法律の題名変更:情プラ法へ変更

プロバイダ責任制限法とは、法律の題名を「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といい、通称名を「プロバイダ責任制限法」と呼ばれ、同法が平成13年(2011年)に制定されて以降、長年このような通称名が定着していました。

ところが、今回の改正により、法律の題名が「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」と変更されました。

これに伴い、通称名は「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」となります。

法律の題名変更の理由ですが、今回の改正事項が、大規模プラットフォーム事業者に、①削除申出への対応の迅速化、②削除等に関する運用状況の透明化に関する措置を義務付けるなど、発信者情報の開示等にとどまらない内容となったことを踏まえたものとされています。

【法律の題名・通称名の新旧比較】

旧法新法
法律の題名特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律
通称名プロバイダ責任制限法情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)

以下では、「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(情プラ法)と呼ぶこととします。

3. 改正法による新たな規律が及ぶ対象者の範囲

今回の改正により設けられた規律は、SNSや匿名掲示板などのサービスを提供しているすべての事業者に及ぶものではなく、そのうち、総務大臣により大規模プラットフォーム事業者として指定された事業者等に及ぶこととなります(20条)。

大規模プラットフォーム事業者として指定された場合には、④削除申請への対応の迅速化と⑤削除等の運用状況の透明化について、一定の義務を負うこととなります。

では、大規模プラットフォーム事業者とはどのようなものでしょうか。

定義規定によれば、「大規模特定電気通信役務提供者」とは、「第二十条第一項の規定により指定された特定電気通信役務提供者をいう」(2条14号)とされています。

この20条1項は、次のような定めです(下線は執筆者によります。)。

(大規模特定電気通信役務提供者の指定)

第二十条

総務大臣は、次の各号のいずれにも該当する特定電気通信役務であって、その利用に係る特定電気通信による情報の流通について侵害情報送信防止措置の実施手続の迅速化及び送信防止措置の実施状況の透明化を図る必要性が特に高いと認められるもの(以下「大規模特定電気通信役務」という。)を提供する特定電気通信役務提供者を、大規模特定電気通信役務提供者として指定することができる。

一当該特定電気通信役務が次のいずれかに該当すること。

イ当該特定電気通信役務を利用して一月間に発信者となった者(日本国外にあると推定される者を除く。

ロにおいて同じ。)及びこれに準ずる者として総務省令で定める者の数の総務省令で定める期間における平均(以下この条及び第二十四条第二項において「平均月間発信者数」という。)が特定電気通信役務の種類に応じて総務省令で定める数を超えること。

ロ当該特定電気通信役務を利用して一月間に発信者となった者の延べ数の総務省令で定める期間における平均(以下この条及び第二十四条第二項において「平均月間延べ発信者数」という。)が特定電気通信役務の種類に応じて総務省令で定める数を超えること。

二当該特定電気通信役務の一般的な性質に照らして侵害情報送信防止措置(侵害情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われるものに限る。以下同じ。)を講ずることが技術的に可能であること。

三当該特定電気通信役務が、その利用に係る特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害が発生するおそれの少ない特定電気通信役務として総務省令で定めるもの以外のものであること。

2~4略

すなわち、ⅰ「侵害情報送信防止措置の実施手続の迅速化及び送信防止措置の実施状況の透明化を図る必要性が特に高いと認められるもの(以下「大規模特定電気通信役務」という。)を提供する特定電気通信役務提供者」の中から、ⅱ第1号(平均月間発信者数又は平均月間延べ発信者数が総務省令で定められた水準を超えること)、第2号(送信防止措置が技術上可能であること)並びに第3号(総務省令で定められた除外事由に該当しないこと)のいずれにも該当するものが、ⅲ総務大臣による指定の対象となります。

この指定を受けた者は、指定を受けた日から3月以内に、名称・住所等の一定の事項を総務大臣に届け出なければならないものとされています(21条)。

4. ④削除申請への対応の迅速化

改正法により新たに定められた総務大臣が指定する大規模プラットフォーム事業者を対象とする、「④削除申請への対応の迅速化」は、ア削除申請先の窓口の所在が分かりにくい、イ削除申請が放置されると情報が拡散されてしまうため一定期間以内における迅速な対応が必要、ウ削除申請に対する判断結果及び理由の通知がない場合がある等の課題に対応するものとして設けられました。

では、「④削除申請への対応の迅速化」とは、権利侵害情報に対するものですが、具体的にはどのようなものでしょうか。

(1)削除申請を受け付ける方法(削除申請方法)を定め、これを公表する義務(22条)

削除申請先の窓口の所在がわかりにくいといった課題に対応するために、削除申請の方法及び申請先の窓口を分かりやすく定めて公表することが求められています。

なお、削除申請を受けた場合、受付の通知が申請者に対してなされないと正式に申請が受理されたかどうかが分からないことから、削除申請者に対して受付日時が明らかになるようにすることが必要です(22条2項3号)。

(2)削除申請に対する調査義務(23条)

削除申請があった場合、侵害情報の流通によって当該被侵害者の権利が不当に侵害されているかどうかについて、遅滞なく必要な調査を行う義務があります。

(3)削除申請に関するプラットフォーム事業者側の運用体制の整備(24条)

上記(2)の調査のうち、専門的な知識経験を要する削除申請の調査を適正に行わせるため、インターネット上の権利侵害情報への対処にについて十分な知識経験を有する者の中から侵害情報調査専門員を一定数以上選任する義務があります。

この専門員の数は総務省令で定められた数以上が必要となります。

とくに、インターネット上における不適切な投稿は、海外企業の運営するプラットフォームサービスにおいて問題となることが多いことから。

各「プラットフォーム事業者は、自身が提供するサービスの特性を踏まえつつ、我が国の文化・社会的背景に明るい人材を配置すること」が期待されます。

(4)削除申請に対する処理期間の定め及び判断結果等の通知義務(25条)

課題イ及びウに対応するものとして、上記(1)の方法に従った削除申請がなされた場合には、必要な調査を行ったうえで、原則として、申請を「受けた日から十四日以内の総務省令で定める期間内に」削除を行う/行わないといった判断を行い、申請者に対して削除を行ったときにはその旨を、削除を行わなかったときにはその旨及びその理由を、通知する必要があります。

このように、原則として、所定の期間内に、プラットフォーム事業者が削除を行う/行わないといった判断を行ったうえで、一定の事項を申請者に通知することが必要となります。

5. ⑤削除等の運用状況の透明化

改正法により新たに定められた総務大臣が指定する大規模プラットフォーム事業者を対象とする、「⑤削除等の運用状況の透明化」は、プラットフォーム事業者がどのような場合に投稿の削除を行うか等の基準(運用指針)の内容が抽象的であるため、具体的にどのような場合に適用されるかが明らかでない等の課題に対応するものとして設けられました。

では、「⑤削除等の運用状況の透明化」とは、具体的にはどのようなものでしょうか。

(1)削除指針の公表義務等(26条)

プラットフォーム事業者は、一般に利用規約やポリシー等の一定の削除指針を制定して削除手続を行っているのが現状ですが、この削除指針について公表することが求められています。

もっとも、この削除指針についてはどのような内容でもよいというものではなく、情プラ法に定める一定の事項(削除等の対象となる情報の種類をできる限り具体的に定めるなど)に適合していることが望まれます(同条2項)。

この削除指針は、「当該送信防止措置を講ずる日の総務省令で定める一定の期間前までに公表されていなければならない」ものとされています(同条1項)。

(2)削除を行った場合における発信者に対する通知等の措置を行う義務(27条)

プラットフォーム事業者が投稿の削除を行う場合には、投稿を削除された発信者に対して、原則として、投稿の削除を行った旨及びその理由等を通知又は発信者が容易に知り得る状態に置くことが求められています。

(3)運用状況を公表する義務(28条)

プラットフォーム事業者は、削除申請の迅速化を図るための義務及び透明化を図るための義務に基づき講ずべき措置について、一定の事項(例:削除申請の受付状況・回答件数や発信者への通知件数等)について、毎年一回、運用状況の公表を行う義務があります。

以下が公表事項となりますが、次のうち、とくに国会審議を通じて、送信防止措置の実施状況等について自ら行った評価を公表する事項が追加されており、5号に関する事項の関心に高さがうかがわれます。

(措置の実施状況等の公表)

第二十八条大規模特定電気通信役務提供者は、毎年一回、総務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を公表しなければならない。

一第二十三条の申出の受付の状況

二第二十五条の規定による通知の実施状況

三前条の規定による通知等の措置の実施状況

四送信防止措置の実施状況(前三号に掲げる事項を除く。)

五前各号に掲げる事項について自ら行った評価

六前各号に掲げる事項のほか、大規模特定電気通信役務提供者がこの章の規定に基づき講ずべき措置の実施状況を明らかにするために必要な事項として総務省令で定める事項

6. 罰則(35条以下)

新たに導入された上記④と⑤の各規律に関しては、公法的な側面を有することから、削除指針の公表など一定の事項について総務大臣が報告を求めることができるほか、大規模プラットフォーム事業者が一定の事項に違反していると認めるときには是正措置を勧告し、これに応じないときには命令を行い、さらに、命令に違反したときには罰金等の罰則が設けられるなどしています。

7. 改正法の施行時期

気になる改正法の施行時期ですが、「公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

」(改正法附則第1条)とされていることから、遅くとも2025年5月頃までとなります。

もっとも、改正法の施行にあたっては、政省令に委任されている事項(例:侵害情報調査専門員の数など)について、今後の総務省令の制定等が必要な状況となっています。

そのため、具体的な施行までには時間がかかるものと推測されます。

注1 条文上は「送信防止措置」となっておりますが、代表的な措置の例である削除請求を念頭に解説をしています。

注2 条文番号は、改正法案提出時における新旧対照表に従っています。

著者情報

大澤 一雄

弁護士
大澤 一雄

上智大学法科大学院卒業後、司法修習修了。

2022年に大澤法律事務所開設。

趣味は水泳。

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