アダルト動画を違法にアップロードしたことなどを理由に、動画制作会社から発信者情報開示請求がなされているので意見を照会したという手紙が契約をしているプロバイダから届いたという相談を受けることがここ数年で多くなりました(2025年8月31日にインターネット版朝日新聞で同種の相談を背景とした記事が配信されていました。)。
ここでは、こうした相談についての一般論を解説します。
目次
1 発信者情報開示請求とは何か
発信者情報開示請求とは、大雑把にいうと、インターネット上での権利侵害行為を行っている者を特定するための情報(例:IPアドレス、氏名・住所・電話番号など)をプロバイダに請求することのできる権利です。
これにより発信者を特定することで、その後に損害賠償請求をすることが想定されます。
通称、情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)という法律で定められた権利です。
インターネット上での権利侵害行為と聞くと、名誉毀損や侮辱等の誹謗中傷行為と思われがちですが、著作権侵害も権利侵害行為であることに違いはありません。
2 意見照会書が届く理由
では、冒頭の手紙がなぜ届くのでしょうか。
これは、ファイル共有ソフト「ビットトレント」をインストールした方について起きている事象のようです。
このソフトをインストールした状態でアダルト動画を閲覧していると、気づかないうちに、著作権侵害が生じている場合があります(大まかにいうと、「ダウンロードと併せて意図せずしてアップロードもしている」という状態)。
その結果、著作権侵害を理由として開示請求がされることとなります。
開示請求がプロバイダに対してなされると、法律上、当該プロバイダは該当の契約者に対して、氏名・住所等の契約者情報を開示してもよいかどうかも含めた「意見照会」を行わなければならないとされていることから、冒頭の手紙が届くという仕組みです。
3 意見照会書に対する対応
「意見照会書」には、開示に同意するかどうかについての意見を聴く欄があり、開示に同意をすれば契約者情報が開示されます。
他方、不同意欄にチェックをすればプロバイダにおいて対応をすることとなります。
具体的対応はプロバイダ次第ですが、任意には開示をせずに、裁判所が開示を認めたときには開示をしているように感じています(裁判所の判断が開示不相当であれば開示はされません)。
開示に同意すれば後日動画制作会社の弁護士から賠償請求が来ることはほぼ確実ですので、こうした点も踏まえて同意をするかどうかを判断する必要があります(例えば、賠償金を支払うことは構わず、できるだけ早く解決をしたいということでしたら同意することも検討に値するでしょう。)。
4 もし氏名・住所等が開示されたら
意見照会に対して契約者情報の開示に同意をした、または不同意(回答しない場合を含む)にしたものの裁判所の判断により開示相当となれば、氏名住所等の契約者情報が動画制作会社の弁護士に開示されます。
プロバイダが開示をした段階で、「発信者情報開示のお知らせ」などという書面がプロバイダから届くのが通常ですので、この時点で開示されたことが分かります。
その後、動画制作会社の弁護士からご自宅宛に損害賠償請求を求める旨の手紙が届くこととなります(把握している限りでは、東京都、札幌に所在する事務所から手紙が届くようです。)。
5 弁護士からの損害賠償請求への対応
弁護士からの損害賠償請求ですが、担当事務所によってパターンがあります。例えば、個別和解の場合は33万円、包括和解の場合は77万円の賠償として被請求者の選択に委ねるもの、個別和解を前提として50万円の賠償を求めるものなどです。
次に、こうした金額は適正なものでしょうか。
民事裁判のルールでは、賠償請求をする側で、なぜその賠償金額となるのかを説明・立証する必要があります。
そこで、なぜ求められている金額となるのか説明を求めるのが素直な考えです。
もっとも、大量に請求をしているからなのか、十分な説明をせずに、事務所基準などという回答しか得られないことも多い印象です。
そのため、求められている金額が適正なものかどうかを判断することは難しいといえます。
また、金額の減額を求めても、応じることは少ない印象があります。
そうなってくると、弁護士の提示する内容で応諾するかどうかが一つの選択肢となってきます。
6 示談する場合の注意点
弁護士の提示する内容で応諾するかどうかの検討にあたっては、主に次の事項に注意をした方がよいと考えています。
- 刑事責任の宥恕文言があるか
弁護士からの手紙には刑事罰(著作権法違反)にも抵触のおそれがあるなどとの記載がありますので、念のため刑事責任を宥恕する旨の定めがあるかを確認したほうがよいでしょう。
- 違約金
もっとも気をつけたほうがよいのは違約金条項だと考えています。これは、再度同じことを行ったときには○円支払うなどというような条項です。これが高額に設定されていると、将来損害額の立証をしなくとも定められた違約金の請求という切り口で高額の違約金の請求が認められてしまう可能性があります。そこで、高額の違約金が設定されているときには、そもそも応じるべきかどうかについて検討をしたほうがよいでしょう。
7 適正な損害額を決めてもらう方法
以上からすると、示談では相手弁護士の要求に応じるかどうかという話となってしまう可能性が高いといえます(そのため、示談を目的とするときには、特段のご依頼がない限り弁護士への依頼はお勧めしておらず、アドバイスにとどめることも多いです。)。
とはいえ、適正かどうかも分からない賠償金を支払うには抵抗がある、高額な違約金を受諾することには抵抗がある場合には、例えば、次のような方法が考えられます。
(1)債務不存在確認訴訟の提起
これは、動画制作会社に求められている賠償金額を支払う義務がない旨の確認を裁判所に求めるものです。
この訴えがなされると、被告側である動画制作会社において損害額の主張立証をするなどとして、最終的に支払うこととなる損害額が認定されるのが通常です。
もっとも、弁護士費用がかかってしまうことから、求められた賠償金を払うことの方がコスト的にはよいということもあります。
なお、似た手続に債務不存在確認「調停」というものもありますが、あくまで裁判所における話し合いであり、裁判官が損害額を認定するものではありません。
(2)自分が妥当と考える金額を支払う方法
相手の請求額と自分が妥当と考える金額との折り合いが付かない場合等には、示談書が締結できないことから、支払いたくでも支払えず気持ちが悪い、という方もいらっしゃると思われます。
この場合には自分が妥当と考える金額を支払うことも考えられます。
もっとも、示談書を締結しないことから、相手方とのトラブルが正式に解決するものではなく、不足額の請求をされることもあるでしょう。
8 自分がなぜ特定されたかを知りたい
自分がなぜ特定されたかを知りたいときには、裁判所の記録を謄写することで開示請求をめぐる裁判記録を確認することとなります(こちらの記事をご確認ください)。
裁判所への問い合わせには「事件番号」が必要ですが、プロバイダから送付される「発信者情報開示のお知らせ」などに記載されていると想定されます。
9 まとめ
どのような解決がよいのかが分からないというお悩みがあると思いますので、お気軽にお問い合わせください(2025年10月6日時点で相談料は一回あたり1万1000円です。)