発信者情報開示請求(以下「開示請求」といいます。)がなされると、プロバイダから「発信者情報開示に係る意見照会書」(以下「意見照会書」といいます。)が届くことがあります。
この意見照会書について、氏名・住所等の発信者情報の開示に「同意しない」旨の意見を述べた場合において、後日、プロバイダから「発信者情報開示のお知らせ」が届くことがあります。
ここでは、「発信者情報開示のお知らせ」が届いた場合の対応について、概説致します。
目次
1 「発信者情報開示のお知らせ」とは何か
開示請求とは、インターネット上の投稿(例:匿名掲示板への書き込み、SNSでの発信、口コミレビューなど)について、発信者を特定するのに有用な情報(例:氏名住所等)の開示をプロバイダに求めるものです。
「発信者情報開示のお知らせ」とは、開示請求の結果、氏名・住所等が、プロバイダから開示請求者に対して開示されたことを、発信者に知らせる書類となります。
これは、プロバイダが開示命令を受けたときは、原則として、意見照会書において不開示意見を述べた発信者に対して、遅滞なく「開示命令を受けた旨」を通知しなければならないという情プラ法6条2項に基づくものです。
2 「発信者情報開示のお知らせ」が届くのはどのような場合か
このような書類であることから、開示請求の結果、プロバイダが開示請求者に対して、氏名・住所等の発信者情報を開示した場合に届きます。
3 「発信者情報開示のお知らせ」には何が記載されているか
文字通り、プロバイダが開示請求者に対して開示した情報(例:氏名・住所)が記載されているほか、裁判を経ているときには事件番号等が記載されています。
事件番号とは、裁判を特定するために必要な情報であり、例えば、「東京地方裁判所 令和6年(発チ)第○号発信者情報開示命令申立事件」という情報です。
4 「発信者情報開示のお知らせ」が届いたときにはどうすればよいのか
「発信者情報開示のお知らせ」が届いたということは、開示請求者に対して、氏名・住所等の情報が開示されたことを意味します。
そのため、後日、民事上の責任を求めるものとして、
ⅰ弁護士から損害賠償請求を求める旨の内容証明郵便が届くこと、
ⅱ裁判所から訴状が届くこと
などが考えられます。
このほか、ⅲ名誉毀損・侮辱等を理由として警察から事情を聴きたいという連絡がある可能性もあります。
そこで、「発信者情報開示のお知らせ」が届いたときには、対応方針を決める必要がありますが、大まかにいうと、①問題となった投稿を行ったことを反省して示談をする方針、②違法な投稿ではないとして争う方針(この場合には訴訟となる可能性が高いです。)が考えられます。
いずれの方針が正しいのかは一概にはいえませんが、裁判所での審理を経た上で発信者情報が開示されているときには、当該裁判では当事者ではないことから言い分が十分に伝わっていない可能性があるにしても、一旦は裁判所により投稿が違法と認定されたことについて、冷静に受けとめる必要があるといえます。
ご自身では冷静な受けとめができないというときには、弁護士に相談されることをお勧めしております。
5 示談相手の連絡先が分からない場合の対応
それでは、示談をしたいと考えた場合において、意見照会書等を通じて、開示請求者の連絡先が掲載されていない場合もあります(意見照会書が届いた際の同封書類に開示請求者の代理人弁護士名等が記載されているときには、当該弁護士に連絡することが考えられます。)。
このような場合には、相手からの連絡があるまで連絡を待つことも考えられますが、連絡先を調べて、こちらから連絡することも考えられます。
開示請求者の連絡先を調べる方法としては、例えば、開示請求に関する裁判の記録を閲覧することで連絡先を知る方法があります。
もっとも、こうした記録は誰でも閲覧することができるものではなく、利害関係があることを疎明する必要があります。
具体的には、プロバイダから届いた意見照会書や「発信者情報開示のお知らせ」を資料として添付することで、利害関係の存在を裁判所に説明することとなります。
実際に記録の閲覧をするときには、事前に裁判所の担当部署に確認をするとよいでしょう。
6 プロバイダからの意見照会書を確認していないものの、突然「発信者情報開示のお知らせ」が届くことがあるのか
通常、意見照会を行うプロバイダが発信者として認識しているのは、インターネット接続契約の契約者となります。
そのため、契約者宛に、意見照会書が届くこととなります。
もっとも、問題となっているインターネット上の投稿を契約者以外の同居人が行い、発覚をするのをおそれて意見照会書を破棄したものの、契約者が「発信者情報開示のお知らせ」を目にすることもあり得ます。
このような場合には、プロバイダからの意見照会書を確認していないものの、突然「発信者情報開示のお知らせ」が届いたと感じることがあるでしょう。
例えば、夫婦子一人の家庭において、インターネット接続契約の契約者が夫であるところ、問題となる投稿を行ったのが妻であり、意見照会書を受領したのも妻である場合において、不開示を期待して意見照会書を夫に見せなかったものの、結果として「発信者情報開示のお知らせ」が届いたので、夫に見せたというような場合です。
7 まとめ
「発信者情報開示のお知らせ」が届いたときには、客観的な意見を聴いたうえで、今後の方針を決定することをお勧めしています。