大澤法律事務所

弁護士紹介

業務内容

アクセス

記事一覧

042-519-3748

営業時間 平日10:00 - 20:00

お問合せ

メニュー

発信者情報提供命令の発令を受けたプロバイダの対応方法について

2024-01-18
削除・開示請求

SNSに代表されるインターネット上の投稿の中には、誹謗中傷に該当するなど適切でないものがあります。

このような投稿について、被害者は、投稿を行った発信者に対して責任を追及するため、プロバイダを相手方として、氏名・住所等の発信者の特定に資する情報の開示を求める発信者情報開示命令(以下「開示命令」といいます)の申立てを裁判所に行うことができます。

開示命令の申立てに係る事件を開示命令事件といいます。

この開示命令事件では、発信者情報提供命令(以下「提供命令」といいます)の申立てを行うことができ、裁判所がプロバイダに対して提供命令を発令することがあります。

提供命令の発令を受けたプロバイダは、どのような対応をとればよいのか、その概要を説明致します。

目次

1. 提供命令とは

提供命令とは、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(通称プロバイダ責任制限法)の15条に規定されている命令で、令和3年(2021年)のプロバイダ責任制限法(以下「法」といいます)の改正により設けられたものです。

これは、開示命令事件の審理中に発信者情報(例:経由プロバイダ(注1)の保有するログ)が消去されることで発信者の特定ができなくなることを防ぐため、裁判所が、申立てにより、決定で、開示命令事件の相手方である開示関係役務提供者(例:コンテンツプロバイダ(注2))に対し、法所定の事項を命じることができる、という制度です(法15条1項)。

注1. 経由プロバイダとは、主に、接続事業者などを想定したもので、アクセスプロバイダ(AP)などとも呼ばれます。

注2. コンテンツプロバイダとは、主に、掲示版事業者、SNSサービスを提供する事業者などを想定したもので、CPなどとも呼ばれます。

2. 提供命令の効力

裁判所が提供命令を発令した場合、提供命令は次のような効力を有します(注3)。

提供命令は、法15条1項1号と同項2号にその効力が定められていますので、便宜上、第1号命令と第2号命令と表記します。

(1)第1号命令の効力(法15条1項1号)

イ提供命令の相手方であるプロバイダ(CP)において、その保有する発信者情報(IPアドレス等)をもとに特定される他のプロバイダ(AP)を特定できる場合には、その氏名等情報を、申立人に対して、書面又は電磁的方法により提供すること(法15条1項1号イ)

又は

ロ提供命令の相手方において、その保有する発信者情報をもとに他のプロバイダ(AP)を特定できない場合(又は他のプロバイダを特定するために用いることができる発信者情報として総務省令で定めるものを保有していない場合)には、その旨(不特定等の通知)を、申立人に提供すること(法15条1項1号ロ)

(2)第2号命令の効力(法15条1項2号)

上記(1)イにおける他のプロバイダ(AP)の氏名等情報の提供を受けた申立人から、当該他のプロバイダに対する開示命令の申立てをした旨の書面又は電磁的方法による通知を受けた場合、提供命令の相手方において、その保有する発信者情報を、当該他のプロバイダに対して、書面又は電磁的方法により提供すること(法15条1項2号)

注3. 第1号命令は、「イ又はロに定める事項」を提供することを命じる2択の命令のほか、「イに掲げる場合に該当すると認めるとき」(法15条1項1号柱書)には、「イに定める事項」のみを提供することを命じる1択の命令を発令することも法律上は可能です。

3. 提供命令の発令を受けたプロバイダの対応方法

提供命令の発令を受けたプロバイダ(CP)としては、概ね次のような手順での対応を必要とするものとされています(「プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドライン別冊「発信者情報開示命令事件」に関する対応手引き」(令和4年9月)参照)。

  1. 開示請求の対象となっている発信者情報を保有しているかどうかについて、速やかに確認をすること【発信者情報の保有の有無の確認】
  2. 開示請求の対象となっている発信者情報を保有していることを確認した場合、自らが保有している発信者情報(IPアドレス等)により他のプロバイダ(AP)の氏名等情報の特定作業を行うこと【他のプロバイダの特定】
  3. 他のプロバイダ(AP)の特定結果に従って、申立人に対して、他のプロバイダ(AP)の氏名等情報(明らかにならなかった場合にはその旨(注4))を提供すること【申立人に対する提供】
  4. その後、申立人が氏名等情報に基づいて当該他のプロバイダ(AP)を相手方として開示命令の申立てを行った旨の通知が申立人からなされたときには、提供命令に従い、当該他のプロバイダ(AP)に対して保有する発信者情報(IPアドレス等)を提供すること【他のプロバイダに対する提供】

注4. 他のプロバイダ(AP)を特定するために用いることのできる発信者情報を保有していない場合にもその旨の通知を行います(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則7条)。

4. 提供命令によっても提供することのできない氏名等情報

(1)プロバイダ責任制限法の定め

これまで解説をしてきたように、提供命令の発令を受けたプロバイダとしては、保有する発信者情報を調査した上で、他のプロバイダの氏名等情報の特定を行い、これを申立人に対して提供することが求められています。

もっとも、プロバイダ責任制限法15条1項1号イ括弧書においては、「当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者(当該侵害情報の発信者であると認めるものを除く。ロにおいて同じ)」として、氏名等情報を提供することとなる他のプロバイダから「発信者であると認めるもの」を除外しています。

すなわち、提供命令の発令を受けたプロバイダにおいて特定を行ったものが「発信者」であると、そのプロバイダが認める場合には、氏名等情報を提供してはならないものとされています。

その趣旨は、本来開示命令の要件を満たした場合に開示されるべき情報が緩やかな要件で発令される提供命令において開示されることを防ぐためとされています。

(2)想定されている場面

では、除外される場合として、どのような場面が想定されているのでしょうか。

上記の規定は、ホスティング事業者に対して提供命令が発令された場面が想定されています(総務省総合通信基盤局消費者行政第二課著「プロバイダ責任制限法」第3版221頁以下参照)。

具体的には、ホスティング事業者から借りたサーバ上に設置されたWebサイトにおいて適切でない投稿がなされた場合において、ホスティングサービスの利用者がWebサイトを設置して自ら投稿を行った場合が挙げられます。

もっとも、ホスティング事業者からみた場合、サービスの利用者が「発信者であると認めるもの」であるかどうかについて、判断に迷う場合もあると思います。

このような場合についての対応については弊所までお問い合わせ下さい。

5. まとめ

以上が提供命令の発令を受けたプロバイダの対応ですが、その具体的対応は個別的事情により様々です。

とくに複数のプロバイダが多層的に介在している場合など(MNO/MVNO・VNEなど)です。

実務上、プロバイダ責任制限法の解釈に則った処理を行うためにはどのようにしたらよいのかなど、疑問が生じることがあると思います。

そうした際には、まずはお問い合わせください。

6. 参考

<法令>

〇特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律

(提供命令)

第十五条本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は、発信者情報開示命令の申立てに係る侵害情報の発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるときは、当該発信者情報開示命令の申立てをした者(以下この項において「申立人」という)の申立てにより、決定で、当該発信者情報開示命令の申立ての相手方である開示関係役務提供者に対し、次に掲げる事項を命ずることができる。

  1. 当該申立人に対し、次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じそれぞれ当該イ又はロに定める事項(イに掲げる場合に該当すると認めるときは、イに定める事項)を書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって総務省令で定めるものをいう。次号において同じ)により提供すること。
    • イ. 当該開示関係役務提供者がその保有する発信者情報(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。以下この項において同じ)により当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者(当該侵害情報の発信者であると認めるものを除く。ロにおいて同じ)の氏名又は名称及び住所(以下この項及び第三項において「他の開示関係役務提供者の氏名等情報」という)の特定をすることができる場合当該他の開示関係役務提供者の氏名等情報
    • ロ. 当該開示関係役務提供者が当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報として総務省令で定めるものを保有していない場合又は当該開示関係役務提供者がその保有する当該発信者情報によりイに規定する特定をすることができない場合その旨
  2. この項の規定による命令(以下この条において「提供命令」といい、前号に係る部分に限る)により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた当該申立人から、当該他の開示関係役務提供者を相手方として当該侵害情報についての発信者情報開示命令の申立てをした旨の書面又は電磁的方法による通知を受けたときは、当該他の開示関係役務提供者に対し、当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報を書面又は電磁的方法により提供すること。

2~5略

<文献等>

  • 総務省総合通信基盤局消費者行政第二課著「プロバイダ責任制限法」第3版(2022年10月)
  • プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会「プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドライン別冊「発信者情報開示命令事件」に関する対応手引き」(令和4年9月)
  • 大澤一雄著「発信者情報開示命令の実務」(2023年3月)

執筆者

大澤 一雄 弁護士の顔写真

弁護士
大澤 一雄

上智大学法科大学院卒業後、司法修習修了。

2022年に大澤法律事務所開設。

趣味は水泳。

お問合せ

大澤法律事務所

〒190-0012 東京都立川市曙町1丁目12番17号 原島ビル4階

042-519-3748

営業時間:平日10:00 - 20:00


関連カテゴリ

関連記事