突然プロバイダから「発信者情報開示に係る意見照会書」(以下「意見照会書」といいます)が届くことがあります。
通常、その内容は、インターネット上のある投稿について、その投稿により権利を侵害されたと主張する者からプロバイダに対して発信者情報開示請求がなされたので、意見を照会するというものです。
このような意見照会書がなぜ届くのか、届いた後の流れについてご紹介いたします。
目次
1 発信者情報開示請求とは?
「意見照会書」を理解するためには、まず発信者情報開示請求を理解する必要がありますので、簡単に説明致します。
X(旧Twitter)・InstagramなどのSNS、YouTubeなどの動画サイト、5ちゃんねるなどの匿名掲示板では、誹謗中傷等の不適切な投稿が行われることがありますが、匿名でなされる場合が多いです。
不適切な投稿をされた者からすると、投稿が匿名でなされた場合には、誰に対して責任追及をすればよいのかが分からないのが通常です。
例えば、問題となる投稿により名誉権等の権利を侵害されたとして投稿を行った者(以下「発信者」といいます)の民事責任を追及するためには、その前段階として発信者を特定する必要があります。
この発信者の特定に資する発信者情報(IPアドレス、タイムスタンプ、電話番号、氏名及び住所等)の開示をプロバイダに対して求めることのできる制度が「発信者情報開示請求」です(「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(通称「プロバイダ責任制限法」)5条)。
2 「意見照会書」が届く場合とは?
このような「発信者情報開示請求」がなされた場合、開示請求を受けたプロバイダは、発信者に対して、開示の請求に応じるかどうかについて意見を聴かなければならないものとされています(プロバイダ責任制限法6条1項)。
具体的には、①発信者情報の開示に応じるかどうかという「同意or不同意」の意見だけではなく、②応じるべきではないとの意見である場合(①において不同意意見である場合)には、その理由も聞かなければならないものとされています。
すなわち、「発信者情報開示請求」がプロバイダに対してなされた場合、発信者に対して「意見照会書」が届くこととなります。
以上のようなプロバイダ責任制限法の規定を受けて、民間団体等が作成・公表する「プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドライン」が設けられており、現実には「発信者情報開示に係る意見照会書」というタイトルの文書が届く場合が多いといえます。
【意見照会手続】
3 「意見照会書」の照会事項に心当たりがない場合とは?
「意見照会書」が届いたものの、その照会書に記載されている投稿内容に心当たりがないという場合も考えられます。
これは、例えば、意見照会を行うプロバイダが発信者として認識しているのがインターネット接続契約の契約者であるところ、実際に投稿を行ったのが別人であるという場合です。
夫婦子一人の家庭において、インターネット接続契約の契約者が夫であるところ、問題となる投稿を行ったのが妻や子であるような場合が挙げられます。
4 「意見照会書」が届かない場合があるのか?
発信者情報開示請求がなされたものの、「意見照会書」がプロバイダから届かない場合があるのでしょうか。
発信者に対する意見照会については「開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合」には、例外的に免除されています(プロバイダ責任制限法6条1項)。
そのため、例えば、そもそも発信者の連絡先が登録されていないなどといった場合には、意見照会書が届かないことが考えられます。
5 「意見照会書」が届いた場合の対応方法
「意見照会書」が届いた場合の対応方法としては、
- 発信者情報(氏名・住所など)の開示に同意をする
- 発信者情報の開示に同意をしない
- 何も対応をしない(意見照会に対して回答をしない)
といった対応方法が考えられます。
(1)発信者情報の開示に同意をする場合
発信者情報の開示に同意をする場合には、開示請求を行っている者に対して、発信者情報が開示されます。
その結果、開示請求者から損害賠償請求といった民事上の責任追及がなされることが想定されます。
そのため、開示に同意をするかどうかは慎重に判断をする必要があります。
同意をする場合としては、例えば、改めて投稿を確認したところ、ご自身でも問題のある投稿を行ってしまったことに気付いたため、謝罪をして責任を取りたいという場合が考えられます。
ご自身の投稿に問題があるかどうか第三者の意見が聞きたいという場合には、弁護士にご相談することが考えられます。
また、開示請求者との間で、民事上・刑事上の示談交渉を行ってほしい場合にも、弁護士に依頼することが考えられます。
(2)発信者情報の開示に同意をしない場合
発信者情報の開示に同意をしない場合には、同意しない理由を十分に記載した上で、プロバイダに回答をする必要があります。
プロバイダは開示請求の当事者であるものの、自ら問題となっている投稿を行ったわけではないため、投稿の背景が分かりません。
例えば店舗の口コミが問題となっていたとしても、プロバイダが体験したことではない以上、口コミの内容が事実であるかもわかりません。
そこで、開示請求に対して適切に対応してもらうためには、意見照会に対して十分な回答書を提出する必要があります。
もっとも、回答書の提出は2週間の期限が付けられていることが多いなど、時間的な余裕はありません。
そのため、意見照会書の作成を弁護士に依頼することが考えられます。
(3)何も対応をしない場合
意見照会に対して回答をしない場合には、投稿の背景がプロバイダに伝わらないこととなります。
6 発信者情報が開示された後の流れ
発信者情報が開示された場合、開示請求者から、損害賠償請求といった民事上の責任追及や名誉毀損・侮辱といった罪名での被害届・告訴といった刑事上の責任追及が行われることが考えられます。
こうした場合には、個人での対応が難しい場面もあるため、弁護士に相談することが考えられます。
7 弁護士費用
当事務所では、意見照会書の作成などについてもご相談を承っておりますので、お悩み事項がありますときには、お問い合わせください。
- 意見照会書の作成手数料:5万5000円(税込)~
※投稿数に応じて増額となる場合があります。
注1 発信者の意見を聴く手続については、令和3年の法律改正により設けられたプロバイダ責任法6条2項において「意見の聴取」との文言が用いられたことから「意見聴取手続」と呼称するのが正確ですが、一般的には「意見照会」と呼ばれることがありますので(民間団体等が作成・公表するガイドラインに掲載されている書式では「意見照会」という語句が使用されています)、ここでは「意見照会」と表記しています。
○参考:プロバイダ責任制限法第6条1項)
(開示関係役務提供者の義務等)
第六条 開示関係役務提供者は、前条第一項又は第二項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、当該開示の請求に応じるかどうかについて当該発信者の意見(当該開示の請求に応じるべきでない旨の意見である場合には、その理由を含む)を聴かなければならない。
第2項~第4項 (略)