不動産を売却しようとして不動産登記を確認したところ、「地上権」という見慣れない事項が記録されていることに気づくことがあります。
直近に設定されている場合には地上権を有する者(以下「地上権者」といいます)による使用がなされており、地上権の存在は明らかな場合が多いと思います。
ところが、大正・昭和初期に地上権が設定されて、その存続期間が過ぎているにもかかわらず、その抹消登記がされない結果として、地上権が残ったままとなっている場合があります。
こうした場合には、売買等の妨げとなりますが、地上権をどのように抹消したらよいのか、その方法を解説します。
目次
1地上権とは
地上権とは、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利のことをいいます(民法265条)。
例えば、林業のために土地に地上権を設定する場合です。
通常、地上権は登記されます。
不動産(土地)の登記記録は表題部と権利部に区分されているところ、このうち権利部は甲区と乙区に区分されています。
甲区には所有権に関する事項が、乙区には所有権以外の権利に関する事項がそれぞれ記録されます。
地上権は所有権ではありませんので、乙区において、「原因:大正10年12月10日設定、目的:立木所有、存続期間:20年間、地上権者A」などと記録されます。
登記記録の内容は不動産の登記事項証明書を取得することで確認できます。
登記事項証明書とは、法務局に登記された内容を証明するものです。主な取得方法として、法務局の窓口で申請して取得する方法、オンライン申請で取得する方法があります
2地上権の抹消が問題となる場合とは
地上権は申請により土地の登記記録に記録されるため、その記録を抹消するための申請を行わないと、登記記録上は地上権が設定されたままの状態となります。
現実には非常に古い時代に地上権が設定されて存続期間が過ぎ、土地が使用されていないにもかかわらず、その抹消登記がなされていない場合があります。
例えば、地上権者であるAが林業のために土地を使用し、その存続期間の経過をもって林業を廃業したものの、様々な理由により登記記録の抹消を行わなかった場合が考えられます。
執筆者の経験でも、例えば「昭和10年12月10日設定、立木所有目的、存続期間昭和10年12月10日より昭和30年12月9日まで20年間、地上権者A」などと登記されていたものの、現実に土地は使用されておらず、登記事項証明書を取得して初めて地上権の存在を知ったというケースがあります。
こうした場合、地上権を抹消しないと、地上権の負担付で土地の売買をすることとなるため、そのままでは土地の売却に支障を来す場合があります。
また、令和3年に創設された相続土地国庫帰属法を利用できない土地として「担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地」(相続土地国庫帰属法2条3項2号)が掲げられており、地上権の付着している土地は国庫帰属が認められないものとされています。
したがって、地上権の存在が売買等に支障を生じさせるため、売買等に際して地上権を抹消しなければならないという問題が生じることがあります。
3地上権の主な抹消方法
地上権の主な抹消方法としては、次のものが考えられます。
地上権者の協力を得る方法
地上権の抹消は土地所有者と地上権者の共同申請で行うのが原則であることから、地上権者として記録されている者の協力を得て抹消登記手続を行うことが考えられます(不動産登記法60条)。
しかし、とくに地上権の抹消が問題となる場合は、その存続期間にもかかわらず、長年抹消手続が行われていないことが多く、地上権者が死亡し相続が発生していることがあります。
こうしたときには、地上権者として登記されている者の協力を得ることができません。
相続人の協力を得る方法
地上権者について相続が発生しているときには、その相続人を調査したうえで、その協力を得て抹消登記手続を行うことが考えられます。
この調査は、登記記録上の地上権者の情報をもとに、戸籍等を取得することで行うこととなります。
もっとも、相続が発生している場合には、相続人が複数人にわたり、しかも古い地上権であるほど何度も相続が発生している可能性が高まる結果、相続人が全国各地にいて、その数も数十人ということもあります。
先ほどの例である昭和10年(1935年)設定の地上権を前提にすると、地上権設定の時点で地上権者が20歳であったとしても、令和5年(2023年)の時点では108歳となっており、相続人が多人数になっている可能性が高いといえます。
相続人の協力を得るときには、相続人全員の印鑑証明書などの取得が必要となりますが、証明書の有効期間内に多数の書類を収集することは現実には難しいといえます。
民事訴訟を利用する方法
そこで、こうした場合には任意の協力を得て抹消登記を行うことは現実的には難しいことから、「抹消登記手続をせよ。
」という判決を求めて、相続人に対して、地上権抹消登記手続請求訴訟を行うことが考えられます。
もっとも、全ての相続人の協力を得ることが難しいというなどという事情から訴訟手続を選択するのであり、相続人の方々には前もってご理解をいただくこととなります。
上記の認容判決を取得したのち、土地所有者において、地上権の抹消登記手続を行うこととなります。
これにより、地上権の負担付の土地から負担のない土地になります。
4その他の場合
以上は、地上権者と連絡がとれる、或いはその相続人の所在が確認できる場合を想定しています。
もっとも、中には相続人の所在が確認できない場合や相続人があることが明らかでない場合などもあります。
これらの場合には、例えば不在者財産管理制度の利用、相続財産管理制度の利用、公示催告による除権決定の利用などが考えられます。
5まとめ
地上権の抹消手続には思いがけず時間がかかってしまうことがあることから、抹消登記のなされていない地上権を発見したときは、早めに抹消手続に着手することが大切です。
一連の抹消手続を速やかに行うためには、最終的には司法書士の関与も必要となりますが、当事務所では提携の司法書士とともに手続を進めることが可能です。
6弁護士費用
地上権抹消手続に必要となる主な弁護士費用は次のとおりです。
- 着手金:30万円(税抜)~
- 報酬金:30万円(税抜)~
※抹消を求める物件数や想定される相続人の数により費用が異なります。
参考
〇民法
(地上権の内容)
第二百六十五条地上権者は、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する。
○相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律
(承認申請)
第二条土地の所有者(相続等によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限る)は、法務大臣に対し、その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を申請することができる。
2略
3承認申請は、その土地が次の各号のいずれかに該当するものであるときは、することができない。
一略
二担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
三~五略
〇不動産登記法
(共同申請)
第六十条権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。