建物や土地を親族間で共有しているなど共有状態が発生している不動産がしばしばみられます。共有状態にあることから第三者への売却には困難を伴い、実際に使っている人に買い取ってもらいたいなど共有状態を解消したいという相談を受けることがあります。
ここでは、不動産の持分共有状態を解消するための「共有物分割請求」について、概略を解説します。
目次
1 不動産の「共有持分」とは
不動産の「共有持分」とは、不動産を複数名で所有し、各人の保有する割合のことです。
割合については、不動産の登記事項証明書の甲区欄に記載があります。たとえば、「共有者A持分2分の1、B2分の1」などと記載されています。この証明書は、法務局で誰でも取得することができます。
「共有持分」が生じる理由は様々ですが、①単独所有であった不動産が相続により相続人らの共有となった場合、②親族間で資金を出し合って不動産を購入したため資金割合に応じた持分を保有している場合などが考えられます。
2 不動産の「共有持分」のデメリット
不動産の「共有持分」の状態にあることはデメリットであると指摘されることがあります。
- デメリット1:共有者の一人が無償で使用
例えば、亡父が単独所有していた実家を子AB二人で50%ずつの割合で相続したものの、実際に使用しているのは生前父と同居していた子A一人の家族であり、他の子Bは持分を有するものの使用していない場合です。
Bは持分を有しているものの実際に使用することが難しく、またAから賃料に相当する収益も得ていないことから、不満が生じてしまうことがあります。
- デメリット2:共有者一人の一存では売却が困難
例えば、子ABが50%ずつの割合で親から相続をした土地があり、ABいずれもが使用していないことから、AがBとともに売却をしたいと提案したところ、Bには思い入れがあることから売却を拒否された場合です。
A単独で所有する持分を売却することも可能ではありますが、Bとともに売却をする場合と比較すると、売却価格が下がることが予想されることから、Bに買い取ってもらいたいと考えるのが普通でしょう。
このほか、共有物に変更を加えるには他の共有者の同意が必要(民法252条)などのデメリットもあります。
こうしたデメリットを背景として、共有状態を解消したいというニーズが生じます。
3 共有状態解消の流れ
不動産の共有状態を解消するには、次の方法が考えられます。
(1)方法1:共有者間での任意の話し合い
共有者同士で話し合いをすることで共有状態を解消することです。
例えば、話し合いの結果として、協力をして不動産を売却する、あるいは共有者の一人が他の共有者の持分を買い取るといったことが考えられます。
(2)方法2:裁判所での共有物分割請求調停
方法1は、共有者同士で建設的な話し合いができることが前提ですが、何らかの事情により、共有者同士での話し合いが難しいときには、中立の立場にある第三者を介して話し合いをすることが考えられます。
これは裁判所における共有物分割請求調停という民事調停の制度を利用するものです。
調停とは、裁判所に属する中立の立場にある調停員立会いの下、共有状態解消のための話し合いを行うというものです。
調停を利用することで、共有者同士では感情的になってしまう場合などでも、問題を解決できることがあります。
もっとも、あくまで話し合いが前提ですので、裁判所が一定の結論を示してくれるわけではなく、話し合いがまとまらないときには調停は不成立となります。
(3)方法3:裁判所での共有物分割請求訴訟
話し合いでの解決が難しいときには、共有物分割請求訴訟を提起することとなります。
共有物分割請求訴訟とは、共有状態の解消を裁判所に求める訴訟手続です。
この訴訟においても話し合いを継続することは可能ですが、話し合いがまとまらないときには、裁判所が共有状態の解消方法について、一定の判断を示すこととなります。
なお、共有者間で話し合いを一切行わずに訴訟を提起することは原則として認められていません(ただし、話し合いが非常に困難という事情があるときには例外として認められる可能性があります。)。
そのため、方法1や方法2のような方法により話し合いを行う必要がありますが、離婚訴訟のように調停を前置しなければならないものではありません。
4 共有状態の解消方法としての共有物分割請求訴訟で裁判所が示す判断例
方法1と方法2は話し合いにより解決策を見いだすため、解決方法は話し合い如何によります。
他方、方法3の共有物分割請求訴訟では、どのような判断が想定されるでしょうか。①現物分割、②代償(賠償)分割及び③換価(競売)分割が想定されます。
(1)①現物分割とは(民法258条2項1号)
現物分割とは、共有物を共有持分割合に応じて物理的に分ける方法です。
例えば、更地を分筆の上、所有権登記をする場合などです。
(2)②代償(賠償)分割とは(民法258条2項2号)
代償(賠償)分割とは、共有物を共有者の一人(又は複数人)の所有とし、共有物を取得した者が他の共有者に代償金を支払う方法です。
例えば、裁判所が共有名義の不動産に居住している者に対して、他の者の持分を取得する代償として一定額を支払うよう給付命令を行う場合です。
(3)③換価(競売)分割とは(民法258条3項)
換価(競売)分割とは、共有物を競売により第三者に売却し、その売却代金を共有持分割合に応じて共有者で分ける方法です。
例えば、換価分割を命じる判決に基づいて不動産競売手続を通じて換価を実現する場合などです。
(4)分割方法の検討順序
上記①から③までの分割方法については、検討順序が法律で定められています。
すなわち、「前項に規定する方法(①現物分割と②代償分割)により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。」(民法258条3項。括弧書部分は筆者による。)として、まずは①現物分割と②代償分割を検討することとなっています。
(5)不動産の価格について争いとなった場合
共有物分割請求訴訟では、不動産の価格が問題となります。
そのため、その価格がいくらであるのかについて争いとなることが多いです。
当事者間で査定書などを出し合い妥協点を見いだせれば合意により価格を決めることも可能ですが、合意が整わないときには裁判所が選任する鑑定士による不動産鑑定評価によることとなります。
この場合鑑定評価に必要な費用が発生します。
5 共有状態を放置した場合に将来生じるデメリット
共有物分割請求には費用や時間などのコストがかかることから、共有状態をそのままにしておこうという考えもあり得ます。
もっとも、共有状態をそのままにすることは基本的にはお勧めしておりません。
とくにデメリットとして想定されるのは、共有者の一人に相続が発生した場合、次の世代の相続人が共有者となり、共有状態の解消が飛躍的に困難となる可能性が高いからです。
例えば、親から相続した実家を子ら3名で共有している状態を想定します。子ら3名にそれぞれ2名ずつの子がいると仮定したときには、子世代に共有状態が引き継がれると、共有者が合計6名となり、その関係によっては話し合いも難しいといえます。さらに子世代に相続が発生すると、さらに共有者が増えていく、というように登場人物が芋づる式に増えてしまう可能性があります。
こうしたことから、次世代の負担とならないよう共有状態の解消をする必要があるといえます。
6 まとめ
共有状態の解消については手続方法の選別などオーダーメイドでの対応が必要となります。そのため、ご自身での対応が難しい場合も多いことから、弁護士へのご相談をお勧めしています。