裁判所で取り決めた養育費、貸金及び賠償金を支払ってもらえないときには、一般に相手名義の預貯金等の財産を差し押さえる、または給料の差押えを行うなどといった手段を執ることで、権利の実現を図ることとなります。
もっとも、これらの差押えを行ったとしても、十分な預貯金等がない、または職場が分からないといった場合には、その強制執行手続は不奏功に終わります。
このような場合には、知っている財産のほかに、財産がないのか知りたいと思うのが通常で、そのための手段の一つとして「第三者からの情報取得手続」があります。
ここでは、「第三者からの情報取得手続」について、その概略を解説します。
なお、養育費などを支払ってもらえる権利のある方を債権者、支払義務のある方を債務者といいます。
目次
1 第三者からの情報取得手続とは
第三者からの情報取得手続(以下「情報取得手続」といいます。)は、裁判所からの命令に基づき、債務者の財産に関する情報を債務者以外の第三者から提供してもらう手続です。
この手続は、文字通り、第三者から情報を取得するだけの手続となりますので、判明した情報に基づき債権を回収するためには、別途、強制執行手続を行う必要があります。
2 情報取得手続により取得できる情報とは
情報取得手続により取得できる情報は、次のとおりです。
- ①不動産に関する情報:例 債務者名義の土地・建物の所在地や家屋番号
- ②給与(勤務先)に関する情報(ただし、後述のようにこの情報を取得できる場合は限定されています。):例 給与の支給者
- ③預貯金に関する情報:例 債務者の有する金融機関・支店名、口座番号、額
- ④上場株式、国債等に関する情報:例 債務者の有する上場株式・国債等の銘柄や数等
3 申立先となる裁判所
情報取得手続は、裁判所を介しての手続であることから、裁判所に申立を行うことが必要です。
具体的には、債務者の所在地を管轄する裁判所に申し立てることとなります。
4 情報取得手続を利用するための要件:執行力のある債務名義の場合
情報取得手続を利用するためには、例えば次の要件を満たしている必要があります。
- 執行力のある債務名義(金銭債権)の正本を有していること(例:判決、和解調書):対象となる情報のうち、「②給与(勤務先)に関する情報」についてのみ、養育費など民事執行法151条の2第1項各号に掲げる義務に係る請求権か、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権を有する場合に限られます。
- 執行開始要件を具備していること(例:債務名義が債務者に送達済、判決が確定済)
- 強制執行を開始することができない場合でないこと(例:債務者について破産手続開始決定などがなされていないこと)
以上のほか、①不動産に関する情報、②給与(勤務先)に関する情報を取得しようとするときには、更に次の要件が必要となります。
- ア 財産開示手続の前置
情報取得手続の申立ての日より前3年以内に財産開示期日における手続が実施されたことの証明が必要となります(財産開示期日実施証明申請書という書式を利用して証明することとなります。この書式は、東京地方裁判所民事執行センターのHPから取得可能です。)。
- イ 強制執行等が不奏功等であったこと
ⅰ配当又は弁済金交付で完全な弁済を受けられなかったこと(民事執行法197条1項1号)、又は、ⅱ強制執行をしても完全な弁済を受けられないこと(同項2号)を疎明する必要があります。
5 情報取得手続の流れ
情報取得手続の大まかな流れは以下のとおりです。
(1)STEP1:管轄裁判所に対して情報取得手続の申立をする
上記4の要件を満たしていることを前提として、裁判所に対して、情報取得手続の申立てを行います。
申立てをする裁判所は、債務者の現在の住所地を管轄する裁判所となります。例えば、債務者が東京都23区ないに居住していれば学芸大学駅にある東京地方裁判所民事執行センター、立川市・八王子市・国分寺市などに居住していれば東京地方裁判所立川支部宛に申立てをすることになりますし、横浜市に居住していれば横浜地方裁判所となります。
申し立てに際しては、「申立書」等を作成するとともに、執行力のある債務名義の正本、送達証明書及び確定証明書などの添付書類を用意する必要があります。その書式は、裁判所のHPから入手することが可能です(東京地方裁判所民事執行センターのHPが充実しています)。
(2)STEP2:情報提供命令
STEP1の情報取得手続の申立てを行った結果、裁判所において申立が相当であると認めたときには、「情報提供命令」がなされます。
これは、書面で知らされるのが通常で、情報提供命令書には、例えば「第三者は、当裁判所に対し、下記各事項の情報を提供せよ」との記載があります。
(3)STEP3:情報提供命令後の第三者による情報の提供
STEP2の情報提供命令後、第三者から情報が提供されることとなります。
情報が提供されるまでの期間について、期限の定めはありませんが、「基本的には,2週間程度が一つの目安となります。ただし,第三者の状況等によっては,回答に時間を要する場合あります。」とされています(東京地方裁判所民事執行センターHPより)。
なお、誰から情報が提供されるかについて、「第三者が作成した情報提供書の写しは,執行裁判所を経由するか,又は第三者から直接,申立人に送付されます。ただし,㋐不動産情報と㋑勤務先情報の場合は,第三者から直接送付されることはなく,執行裁判所を経由します。」とされています(同センターHPより)。
6 情報取得手続実施後:注意点
情報取得手続は、債務者の財産を知るための手続であることから、情報の提供を受けることを超えて、強制的に債権を回収することはできません。
そこで、債権者は、この手続を通じて、知ることのできた債務者の財産に対して、別途強制執行の申立をするなどして、権利の実現を図ることになります。
なお、第三者から裁判所に情報提供書(求められた情報の有無及びその内容を記載したものとなります。)が届くと、執行裁判所は、債務者に対し、情報提供命令に基づいて情報が提供されたという通知をすることとなっています。具体的には、「 通知書は、第三者から(第三者が2人以上いる場合は,最後の)情報提供書が提出された後1か月が過ぎた時点で、事件ごとに1回送付します。」とされています(同センターHPより)。
そのため、見るべき財産情報を取得したときには、速やかに強制執行手続に着手する必要があります。
7 まとめ
情報取得手続を経たのみにでは債権の満足を得ることができず、その後の手続が必要となります。
他方、情報取得手続の債務者となった方についても、債権の弁済について真摯に向き合う必要があります。
いずれの立場であっても、困難な状況にあるものと思われますので、弁護士に相談されることをお勧めしています。