裁判所で取り決めた養育費、貸金及び賠償金を支払ってもらえないときには、一般に相手名義の預貯金等の財産を差し押さえる、または給料の差押えを行うなどといった手段を執ることで、権利の実現を図ることとなります。
もっとも、これらの差押えを行ったとしても、十分な預貯金等がない、または職場が分からないといった場合には、その強制執行手続は不奏功に終わります。
このような場合には、知っている財産のほかに、財産がないのか知りたいと思うのが通常であり、そのための手段の一つとして「財産開示手続」があります。
ここでは、「財産開示手続」について、その概略を解説します。
なお、養育費などを支払ってもらえる権利のある方を債権者、支払義務のある方を債務者といいます。
目次
1 財産開示手続とは
財産開示手続とは、債権者が債務者の財産に関する情報を取得するための裁判所で行われる手続です。
具体的には、債務者が裁判所の定めた財産開示期日に出頭し、自身の財産状況を説明することとなります。
2 財産開示手続を利用するための要件:執行力のある債務名義の場合
財産開示手続を利用するためには、例えば次の要件を満たしている必要があります。
- 執行力のある債務名義(金銭債権)の正本を有していること(例:判決、和解調書)
- 執行開始要件を具備していること(例:債務名義が債務者に送達済、判決が確定済)
- 強制執行を開始することができない場合でないこと(例:債務者について破産手続開始決定などがなされていないこと)
- (1)強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より6箇月以上前に終了したものを除く。)において、金銭債権の完全な弁済を得ることができなかった、又は(2)知れている財産に対する強制執行をしても、金銭債権の完全な弁済を得られないこと
- 債務者が申立ての日前3年以内に財産開示期日においてその財産を開示した者でないこと(申立て段階では明示的な主張立証を要しないものの、これが明らかとなったときには、3年以内にもかかわらず、財産開示手続を実施すべき理由を立証しなければなりません。)
3 財産開示手続の流れ
財産開示手続の大まかな流れは以下のとおりです。
(1)STEP1:地方裁判所に対して財産開示手続の申立をする
上記2の要件を満たしていることを前提として、裁判所に対して、財産開示手続の申立てを行います。
申立てをする裁判所は、債務者の現在の住所地を管轄する地方裁判所となります。例えば、債務者が東京都23区ないに居住していれば学芸大学駅にある東京地方裁判所民事執行センター、立川市・八王子市・国分寺市などに居住していれば東京地方裁判所立川支部宛に申立てをすることになります。
申し立てに際しては、「財産開示手続申立書」等を作成するとともに、執行力のある債務名義の正本、送達証明書及び確定証明書などの添付書類を用意する必要があります。その書式は、裁判所のHPから入手することが可能です。
(2)STEP2:実施決定
STEP1の財産開示申立てを行った結果、裁判所において財産開示手続を行う理由があると認めたときには、財産開示手続の「実施決定」がなされます。
これは、書面で知らされるのが通常で、実施決定書には「主文 債務者について、財産開示手続を実施する」との記載があります。
(3)STEP3:実施決定後の財産目録提出
STEP2の「実施決定」が債務者に送達されることにより確定したのち、裁判所から1箇月ほど後の日が財産開示期日として指定されます。
このとき、債務者に対しては、財産開示期日の約10日前の日までに「財産目録」を提出するよう期限が指定されることが多いです。
この「財産目録」とは、債務者名義の財産の詳細を記入するもので、例えば、保有する金融機関名・支店名及び金額、不動産の所在地などを記載する必要があります。
(4)STEP4:財産開示手続期日当日の流れ
財産開示手続期日当日は、非公開の法廷で、手続が実施されます。
出席者は、裁判官などの裁判所の職員のほか、債権者(代理人を含む)と債務者となります。
具体的には、裁判官主宰の下、債務者において宣誓を行った上で、事前に債務者から提出されている「財産目録」について、裁判官が質問をしていく形で進行していきます(「財産目録」が提出されていないときであっても、財産の詳細について質問がされます。)。債権者は、裁判官の許可を受けた上で、手続の目的に沿う質問をすることができます。
このような手続を経て、財産開示手続は終了します。
なお、債務者が出頭しないときには、直ちに手続が終了となります。
4 財産開示手続に債務者が協力しない場合の制裁
財産開示手続が以上のようなものであるとして、例えば、債務者が財産開示手続期日に出頭しないなど、手続に協力しないと、その財産を知ることができません。
そのため、債務者が協力しない場合について、「陳述等拒絶の罪」(民事執行法213条1項5号)が規定されています。
- (陳述等拒絶の罪)第二百十三条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
- 五 執行裁判所の呼出しを受けた財産開示期日において、正当な理由なく、出頭せず、又は宣誓を拒んだ開示義務者
- 六 第百九十九条第七項において準用する民事訴訟法第二百一条第一項の規定により財産開示期日において宣誓した開示義務者であつて、正当な理由なく第百九十九条第一項から第四項までの規定により陳述すべき事項について陳述をせず、又は虚偽の陳述をしたもの
すなわち、債務者が、①正当な理由なく財産開示期日に出頭しせず、又は財産開示期日における宣誓を拒んだ場合のほか、②正当な理由なく陳述すべき事項について陳述せず、又は虚偽の陳述をした場合には、「6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金」が規定されています。
5 財産開示手続実施後
財産開示手続は、債務者の財産を知るための手続であることから、財産の開示を受けることを超えて、強制的に債権を回収することはできません。
そこで、債権者は、この手続を通じて、知ることのできた債務者の財産に対して、別途強制執行の申立をするなどして、権利の実現を図ることになります。
6 財産開示手続を経ることが条件となっている手続とは
債務者の財産を調べる方法としては、本記事の財産開示手続のほか、「弁護士会照会」(こちらの記事もご参照ください。https://o-lawoffice.jp/columns/234/)や「第三者からの情報取得手続」があります。
これらのうち、「第三者からの情報取得手続」とは、一定の要件を満たした債権者が裁判所の命令により債務者の財産を調べることができる制度です(財産開示が債務者本人に財産を開示させるのに対して、これは第三者である金融機関などに情報を提供させます。)。
この「第三者からの情報取得手続」は、様々な情報及び第三者を対象としていますが、「不動産に関する情報」、「勤務先情報」といった情報を求めるときには、「財産開示手続を経ていること」が要件となっています。
そのため、こうした「第三者からの情報取得手続」を利用するためには、財産開示手続の申立てをすることが必要となります。
7 まとめ
財産開示手続を経たのみにでは債権の満足を得ることができず、その後の手続が必要となります。
他方、財産開示手続の債務者となった方についても、債権の弁済について真摯に向き合う必要があります。
いずれの立場であっても、困難な状況にあるものと思われますので、弁護士に相談されることをお勧めしています。