民事訴訟を起こそうという場合において被告となる人物が死亡していることがあります。この場合には、当該人物の相続人に対して、訴えを提起することが考えられますが、相続人がいない若しくは全員が相続放棄をしたときには、誰に対して、訴えを提起すればよいのでしょうか。
ここでは、民事訴訟の相手となる人物が死亡して、これを相続する人がいない場合における訴えの提起方法について、解説致します。
なお、相手となる人物が自然人(個人)であることを前提としています。
目次
1 民事訴訟の相手となる人物が死亡して、これを相続する人がいない場合とはどのような場合が想定されるか
例えば、次のような場合が想定されます。
- 相続人となるべき方がいない場合:相手となるAさんが死亡し、配偶者も子どももおらず、父母等の直系尊属や兄弟姉妹などもいないときなど
- 相続人となるべき方〃全員が有効な相続放棄をしたことにより、相続人がいないといったとき
2 民事訴訟における被告とは
民事訴訟を起こすときには、具体的に相手となる被告の氏名及び住所を特定しなければなりません。
被告となる人物が死亡して、これを相続する人がいない場合における被告とは、上記1における例でいえば、被告を「亡A相続財産」、「最後の住所地」を住所として、訴えを提起することとなります。相続関係は戸籍、最後の住所地は住民票の除票などで、調査することとなります。
ここで、「亡A相続財産」とあるのは、民法951条で「相続人のあることが明らかでないときは、 相続財産は、これを法人とする」と定められていることから、相続財産を被告(相続財産法人)とするものです。
3 相続財産法人を代理等するものの選任とは
もっとも、相続財産法人とはいっても、法人格を擬制したものにすぎませんので、訴えたからといって、実際に訴状等を受け取ることなど訴訟活動ができるわけではありません。
そこで、相続財産法人を代理等するものを裁判所に選任してもらう必要があります。
ここでは、(1)相続財産清算人と(2)特別代理人といった制度があります。
(1)相続財産清算人
相続財産清算人とは、被相続人の財産調査を行ったうえ、被相続人の債権者等に対してその債務を支払うなどして清算を行い、清算後残った財産を国庫に帰属させるなどといった業務を行うものです。
自動的に選任されるものではなく、利害関係人等の請求により、法定相続人のあることが明らかでないなどの一定の要件を満たす場合において家庭裁判所が選任するものです。
この相続財産清算人が選任された場合は、「亡A相続財産 代表者相続財産管理人△△」を被告として、訴えを起こすこととなります。
すでに相続財産清算人が選任されていれば当該清算人を被告とすれば足りるのですが、選任されていないときには、訴えを起こそうと考えている方が家庭裁判所に対して選任を請求する必要があります。
もっとも、選任を請求するには労力や多額の費用(裁判所が決める予納金を納付する必要がありますが、数十万から百万円程度など高額となる印象です。)が生じるほか、時間もかかるなど、デメリットもあります。
そこで、実務上選択肢に挙がるのは、特別代理人の選任を求めることができるかどうか、です。
(2)特別代理人(選任の流れを含む)
特別代理人とは、これから起こす特定の訴訟の被告側の訴訟活動のためだけに選任される代理人です(民事訴訟法37条、35条)。
その利用方法としては、例えば、次のとおりです。
原告は、訴えの提起の際に、訴状の被告欄のうち、住所を「最後の住所地」、氏名を「亡A相続財産」として訴状等を裁判所に提出するとともに、特別代理人の選任を行うよう裁判所に求める旨の申立書を提出します。
この特別代理人選任申立が相当と認められたときには、裁判所から、所定の予納金を納付(印象としては10万円程度ですが、相続財産清算人の予納金と比較すると低額とです。また、選任するかどうかの連絡は相続財産清算人の選任手続と比較すると早いです。)するよう連絡がくるので、納付します。
納付すると、裁判所から第1回裁判期日の連絡があり、裁判所に提出をした訴状等は特別代理人宛に送達されることとなります。
裁判所から、原告宛に、「特別代理人選任命令」という書面が届き、誰が特別代理人に選任されたかがわかります(特別代理人の氏名・住所の記載があります。)。
その後は、特別代理人が訴訟活動を行うこととなります。
特別代理人としては当事者が死亡しているため事情を詳細に調査することができず、訴状に対する認否は「不知」となってしまうことも多いものと想定されますが、主張する内容と証拠が明確にあれば、勝訴判決を得ることは、そう難しいものではないと想定されます。
4 民事執行手続における特別代理人
特別代理人制度を利用して、被告に支払を命じた勝訴判決を取得しても、被告が死亡して、これを相続する人がいないという状況に変わりはありません。
このような状況において、被告名義の資産に対して、強制執行を行いたいという場合も、訴え提起におけるのと同様の問題が生じます。
そこで、例えば、被告名義の預貯金の差押えなどの強制執行手続を申し立てる際には、特別代理人の選任を申し立てることで、手続を進めることとなります(民事執行法20条、民事訴訟法37条、35条)。
5 まとめ
まとめると、一般的には、特別代理人の選任により、訴えを提起することとなりますが、相続人の存否の確認など、行うべき作業は多岐に及びます。そのため、特別代理人の選任を必要とするような事案では、弁護士の依頼を検討されることを勧めております。