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口座凍結された口座名義人に対する責任追及:ロマンス・投資・サポート詐欺の被害回復手段

2025-12-05
一般民事

ロマンス詐欺・投資詐欺・サポート詐欺などの振り込め詐欺等の被害に関するニュースが日々目につきますが、こうした被害に遭ってしまった場合、被害を回復する手段としてはどのような方法があるのでしょうか。

ここでは、言葉巧みに、金融機関の口座にお金を送金してしまった(或いは意図せずして送金されてしまった)場合を想定して、被害回復手段について、その概略を解説します。

目次

1 振り込め詐欺救済法に基づく口座凍結手続

(1)できる限り早く口座凍結を行うこと

振り込め詐欺等の被害に遭ってしまった場合には、まず送金先の口座を凍結することが考えられます。

いわゆる振り込め詐欺救済法(「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払い等に関する法律」に基づく対応です。

これにより、口座を凍結すれば、口座名義人は預金を引き出すことができなくなります。

もっとも、当然、加害者側もこのことは分かっていますので、口座凍結をしたものの、お金が残っていないことが多いのではないかといえます。

とはいえ、詐欺に遭ってしまったときには、できる限り早く口座凍結を行うことが大切です。

ここで被害金額が確保できれば、最終的に被害を回収できる可能性が高まります。

(2)口座凍結の行い方

被害に遭った口座を管理する金融機関に相談し、金融機関に取引停止等の措置(口座凍結)を行ってもらうことが考えられます。

この措置がなされた後のフローは、失権手続と支払手続からなります。

  • 失権手続

失権手続とは、口座名義人の権利(預金の払い戻しを受ける権利)を失効させるための手続です。金融機関は口座凍結を行ったのち、預金保険機構に対して失権のための公告を通知し、一定期間(60日ほど)の経過をもって失権手続が終了します。

なお、送金先口座に残された預金が1000円未満の場合には被害者への分配は行われません。

  • 支払手続

支払手続とは、失権手続により失権した口座残高を被害者に分配するための手続です。失権手続が終了したあと、口座にある被害金額を分配するための支払手続の公告がされ、各種手続を経て被害者に分配されることとなります。

これらの手続の進捗状況は、預金保険機構のHPから確認することができます。

(3)口座凍結を行った場合について

以上のように口座凍結の手続を行った場合、振り込め詐欺救済法のフローに沿った分配を受ければよいのでしょうか。

注意点として、送金先口座に残された金額がそのままもらえるとは限らない、ということがあります。

前記の支払手続において被害にあったと主張する方が多く、かつ、その金額が多額に上るときには、取り分が減ってしまいます。

そこで、送金先口座に多くの金員が残されている場合には、仮差押・強制執行等の法的手続をとることにより、振り込め詐欺救済法に基づくフローが中止させ、自らが優先して送金先口座からの回収を図ることが考えられます。

なお、他に強制執行等同様の方法をとる方がいるときには、早い者勝ちとなってしまいます。

(4)口座凍結された口座に残された金額を知る方法

口座凍結された口座に具体的にいくらの預金があったのかは金融機関から教えてもらえないようです。

もっとも、1000円未満の場合には、被害者への分配は実施されませんので、支払手続が行われないという回答から1000円未満であったと推測することができます。

他方で、1000円以上であったときには、支払手続における公告を確認することで金額を確認することができます。

ただし、支払手続において公告された段階で法的措置をとったのでは、そもそも振り込め詐欺救済法に基づくフローにより完結してしまう、他の被害者が先に回収してしまう、といった事態も考えられます。

そこで、口座凍結の措置がされた段階で、口座残高及び口座名義人の住所等を調べることで法的手続をとるための準備を行うことが望ましいといえます。

具体的には、弁護士会照会という制度を利用することで、口座残高及び口座名義人の住所等を調べることとなります

その結果、口座残高が少ないということであれば、振り込め詐欺救済法に基づくフローによる解決に任せるという選択となり、多額であったときには法的措置を選択することが考えられます。

2 民事上の法的措置

一般的には、以下のような流れが想定できます。

(1)送金先口座の仮差押

管轄の裁判所に対して、送金先口座の預金債権について仮差押を発令してもらう方法となります。

これは、「預金債権は仮に差し押さえる」「(金融機関は口座名義人に)支払いをしてはならない」という内容を含むものです。

この仮差押が金融機関に対して届いた後、金融機関から陳述書という書類が届きますが、これにより仮差押が上手くいったかが分かります。

なお、仮差押は相手の意見を聴かずに発令をする「仮」の手続であることから、発令に根拠がなく、かつ、相手に損害が生じた場合に備えて、請求金額に応じた担保金が必要となります(最終的に勝訴等すれば返還されるものです。)。

(2)口座名義人に対する損害賠償請求訴訟

前記(1)の仮差押で保全した権利は、口座名義人に対する不法行為に基づく損害賠償請求権であることが考えられます。

そこで、口座名義人に対して、損害賠償請求訴訟を提起することとなります。

一連の詐欺被害は口座を提供する者なしには成り立たないことから、不法行為の幇助として、責任追及を行うことが想定されます。

なお、ここで口座名義人のほか、口座の提供を呼びかけている人物に対して損害賠償請求訴訟を提起することも考えられますが、通常、どこの誰かが分からないことから、口座名人のみを対象に訴えを提起することとなります。

(3)強制執行

前記(2)で勝訴判決を取得し、これが確定したときには、仮差押をしている口座に対して、強制執行手続をとり、金員を回収することとなります。

また、前記(1)で必要となった担保金の返還を受ける手続も行います。

3 弁護士に依頼すれば被害が回復できるのか

法的な被害回復手段が以上なものであるとして、弁護士に依頼をすると、被害が回復できる可能性が高いのでしょうか。

残念ながら被害回復はとても難しいと言わざるを得ません。

通常、お金を送金してしまった口座からは速やかに金員が引き出されてしまっており、残高がない場合が多いでしょうし、口座を他人に提供する方についても資力が乏しいのが通常だと思われます。

そのため、裁判で勝訴したものの回収ができず、弁護士費用の分だけ出費が増えてしまったということもあり得ます。

こうしたリスクも踏まえたうえで、弁護士に依頼するかどうかを判断することが大切です。

4 まとめ

置かれている状況は様々ですので、まずはご相談ください。

著者情報

大澤 一雄

弁護士
大澤 一雄

上智大学法科大学院卒業後、司法修習修了。

2022年に大澤法律事務所開設。

趣味は水泳。

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