不貞行為や貞操権侵害による請求を受けた場合、これが事実であれば慰謝料を支払う必要があります。慰謝料の支払にあたり、示談書(合意書とも言いますが、ここでは示談書で統一します。)を作成するのが一般的です。
ここでは、示談書を作成する理由やどのような内容が考えられるのか等について、概略を説明します。
目次
1 なぜ示談書を作成するのか(口約束ではだめなのか)
示談書を作成しなければならないということはないことから、当事者間での口約束により具体的な慰謝料額を決めた上、その金額を支払うことでも、当事者同士が納得をしているのであれば問題ありません。
もっとも、口約束の場合には、問題が生じる可能性があります。
すなわち、被請求者が支払った金額では足りていないとして追加の慰謝料請求をされる可能性があるということです。例えば、300万円を請求されている場合において、当事者間で話し合いを行い100万円を支払ったものの、被請求者は100万円で終わりと考えていたのに対し、請求者からは直ぐに準備できる100万円を支払ってもらったなど、当事者間での認識に差が生じているときです。
これは、今回の事象に対する慰謝料金額がいくらであるのかを明確にしていなかったことから生じるものですが、こうした曖昧な部分をできる限り排除するために、書面化する必要があるのです。
2 示談書に想定される主な記載事項
示談書を作成する必要があるとして、想定される主な記載事項としては次のようなものがあります。
- 謝罪文言:「乙は甲に対して謝罪をする」などとして、謝罪をする旨の条項です。
- 解決金額:「金100万円の支払義務を負う」などとして、請求されている事象に対する支払金額を一義的に確定する必要があります。
- 支払方法等:「金100万円を、2024年12月30日限り、指定の口座に振り込む方法により支払う」「金100万円を、2024年12月から支払済みまで毎月末日限り、毎月金10万円」などとして、支払時期、支払方法、一括か分割かなどを確定します。
- 接触禁止条項:「乙は甲に対して、今後、正当な事由のない限り、面会、電話、メール、SNS等手段の如何を問わず、丙と接触しないことを約束する」など特定人同士の接触を禁止する旨の条項です。例えば、慰謝料請求をしたものの離婚に至らなかった場合において、不貞関係にあった者同士が今後やりとりをしないことを約束する場面が想定できます。このときには違約金を設定することもあります。
- 口外禁止条項:「正当な事由のない限り、本件に関する一切の経緯を口外しないこと」などと、慰謝料請求の根拠や具体的なやりとり等について、第三者に言わないことを約束する旨の条項です。
- 清算条項:「当事者間には、本示談書に定めるほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する」など、示談書に記載されている以外に互いに請求できるものがないことを確認する旨の条項です。
3 公正証書化すべきか
示談書の内容が決まったとして、書面化するにあたり、当事者間で作成するのがよいのでしょうか、それとも公証役場という役場で書面化するのがよいのでしょうか。
慰謝料を支払う側からすると、内容が問題ないものである限り、書面化できればいずれでも良い場合が多いと考えられます。
他方、慰謝料を支払ってもらう側からすると、書面化したものの任意に履行してもらえない場合には、当事者間で作成した文書では預貯金等を差し押さえることはできず、別途、示談書に基づく支払請求訴訟を提起する必要があります。
仮に、公証役場で公正証書化しているのであれば、公正証書が債務名義となることから、裁判を経ることなく、預貯金等の差押えを行う強制執行手続を行うことができます。そのため、公正証書化する方が有利であるといえますが、公証役場に支払う手数料があります。
したがって、公証役場への手数料を考慮すると、相手の任意の履行が期待できるときには、当事者間で作成した文書で足りるといえます。
4 まとめ
慰謝料支払について当事者間で話し合いがまとまったものの、不測の場合に備えて、示談書を作成したいというときには、支障のない示談書を作成するため、弁護士に相談することを勧めています。
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