認知には、出生後に認知するほか、出生前に認知の手続をとることもできます。ここでは、出生前の「胎児認知」について、概略を解説します。
【POINT】
- 胎児認知は、父が該当の市区町村に認知届出を提出することで行う
- 出生前に父となる人物が認知に協力しないときには、認知を強制する手続はない
- 父となる人物が認知に協力しないときには、出生後に認知を強制的に実現する手続がある(裁判認知)
目次
1 胎児認知とは
婚姻をしていない父と母の間に出生した子どもは、血縁上の父との関係では法律上の親子関係が当然には生じません。
このような場合に、血縁上の父と子どもとの間に法律上の親子関係を生じさせる制度を認知といいます。
一般的に認知が問題となるのは、出生後に、父が認知をしてくれない場合が多いと思われますが、出生前の胎児であるときにも、認知の手続をとることができます。
この子どもが出生する前の段階で行う認知の手続を「胎児認知」といいます。
なお、婚姻関係にある父母の子どもについては、法律上の親子関係が生じることから、ここでの「胎児認知」とは夫婦関係にない父母(母独身)を前提としています。
2 出産前の妊娠中に胎児認知を進める方法
(1)該当の市区町村に認知届を提出
胎児認知は、母の本籍地のある市区町村に対して、父が認知届を提出することで行うこととなります(認知届の書式や必要書類については該当の市区町村に直接お問い合わせ下さい。)。
また、胎児認知を行う際には、法律上、母親の承諾が必要となります(民法783条1項)。
そのため、父となる人物に対して、胎児認知の手続を行うよう任意の協力を求めることとなります。
当該人物が認知届けを提出した場合には、子どもの出生により、効力が生じることとなります。
(2)父となる人物が胎児認知に協力をしない場合
父となる人物が母の要望にもかかわらず、協力をしてくれない場合には、残念ながら出生前に認知を強制する手続はありません。
この場合には、子どもを出生した後に、①認知調停を申し立て、それでも認知をしないときには、②認知の訴えを提起するなどして、子どもの認知を実現することとなります(この点については「認知請求(認知調停・認知の訴え)とは」をご参照ください)。
3 胎児認知により生じる効果
胎児認知を行い、子どもが出生した場合には、父と子どもとの間に出生の時点から法律上の親子関係が生じるほか(民法784条)、主に次のような効果があります。
(1)養育費の請求
子どもの養育に携わっている母は、父に対して、養育費の支払を求めることができることとなります。
(2)相続
父が死亡したときには、子どもは相続人となるため、遺産を相続することができることとなります。
4 まとめ
胎児認知には父となる人物の協力が必要ですが、出生前においてはその協力を強制することができません。
認知の協力を得ることができない場合には、出生後に認知を実現するためには、①認知調停や②認知の訴えを行う必要があります。
もっとも、出生後には子どもの世話に大変な労力がかかるとして、世話が落ち着くまでこれらの手続に着手することを待っていたのでは年単位で着手が遅れてしまいます。
父の協力が得られないときには、出生前から、出生後に認知請求を依頼する弁護士の目処を予めつけておくなど、準備をしておくことをお勧めしております。