個人に多額の借金があり任意整理が難しい場合などには、破産を選択せざるを得ないことがあります。
弁護士に破産手続を依頼するときには、依頼者において多くの資料を準備して弁護士に提出をする必要があります。
弁護士は、依頼者から提出された財産資料に基づき、裁判所に提出をする破産申立書等を作成し、借金の免責許可を得ることとなります。
そのため、依頼者が迅速に書類を準備できるかどうかは、弁護士による破産申立てまでの期間に大きく影響します。
ここでは、個人が破産する場合を念頭に、依頼者が準備する必要のある資料について概説致します(裁判所によって運用が異なるところ、東京地方裁判所立川支部管内で申立てをする場合を想定しています。)。
なお、相談者の財産状況や置かれている状況に応じても準備する資料が異なることにはご注意ください。
目次
1 はじめに
破産申立てを行おうとする者は、裁判所に対して、負債状況のみならず、収支状況や資産状況等を包み隠さずに説明しなければなりません。
そのため、大まかに、以下の事項に関する資料一式を準備する必要があります。
なお、お金には直接関係はしませんが、住民票(申立前3か月以内、本籍記載有、世帯全員分、マイナンバーの記載ないもの)を準備していただく必要があります。
- 負債状況に関する資料
- 収入状況に関する資料
- 資産関係に関する資料
2 負債状況に関する資料
負債状況は、破産をしなければならない状況にあることを示すものです。
債権者からの督促状やカード会社の会員ページ等により負債状況が分かるのが通常です。
もっとも、正確な借入開始日・取引履歴等については、弁護士が債権者に受任通知を送付するとともに、取引履歴の開示を求めることで判明しますので、依頼者としては、債権者と大まかな負債額の分かる資料を準備して頂ければ十分です。
こうした資料も準備できないときには、手書きで債権者・月々の返済額・負債額などをまとめたメモを作成していただく形でも代替可能です。
さらに、メモにまとめることさえも難しいときには、打ち合わせ時にお聞きすることとなります。
3 収入状況に関する資料
いくら負債が多いからといっても、その収入により返済可能な場合には、破産手続を利用することはできません。
そこで、収入状況からみて返済することができないことを明らかにするために、①直近2か月分の給与明細、②源泉徴収票又は③過去2年分の確定申告書の写し等を準備して頂くこととなります。
年金受給者の場合には、年金額の分かる資料です。
仮に、収入がないときには、課税(非課税)証明書などとなります。
4 資産状況に関する資料
さらに、収入から負債を返済することができないとしても、その資産状況から返済可能なときにも、破産手続を利用することはできません。
そこで、資産状況からみても返済することができないことを明らかにするために、次のような資料を準備する必要があります。
(1)預貯金に関する資料
保有している全ての過去2年分の取引履歴が記載された通帳です(仮に残高が0円であっても、準備していただく必要があります。)。
ここで注意をしたいのが、一定期間記帳をしないと、都度の取引履歴が印字されず、該当期間の取引結果のみが通帳に印字されることがあります。
「合算記帳」「おまとめ記帳」等の印字がなされている場合です。
こうしたときには、「合算記帳」等の期間に係る都度の取引履歴を明らかにするため、相談者において、金融機関の窓口で取引明細書(金融機関によって名称が異なる可能性があります。)を取得して頂く必要がありますが、取得までに時間がかかるため、早急に取得をしてもらう必要があります。
最近では、通帳が発行されないタイプの口座やそもそも実店舗を有しないネット銀行を利用されている方も多いです。
これらについては、会員サイト等から指定期間の取引明細を自身でPDF等の形式でダウンロードすることができることが多いため、PDF等の形で準備していただくこととなります。
(2)不動産に関する資料
依頼者名義の不動産に関する登記事項証明書(これは弁護士により容易に取得可能なことから、住所等不動産を特定する情報で足ります。)や住宅ローン残額の分かる資料などです。
ここでは、遺産分割が未了の不動産も含みます。
遺産分割が未了のときには、不動産登記上、依頼者の名義が登記事項証明書における甲区(所有権に関する事項を記載するもの)に記載されていませんが、遺産共有の状態にあることから、注意が必要です。
(3)退職金に関する資料
退職金があるときには、その見込額を明らかにするための退職金計算規程等です。
(4)貸付金に関する資料
知人に金銭を貸し付けているときなどには、金銭消費貸借契約書など、貸付の事実が分かる資料です。
もっとも、人的関係に基づく貸付の場合には、そもそも資料が作成されていないことがありますので、詳細は弁護士までご相談ください。
(5)各種保険に関する資料
生命保険・火災保険・傷害保険・自動車保険等の各種保険に加入されているときは、保険証書(解約返戻金の有無及び返戻金があるときはその金額や算定式が記載されているもの)となります。
多くの場合には、保険加入の事実を承知されていますが、例えば入社時に保険に加入し、保険料が給与から控除されているような場合には、保険加入の事実を失念されている方がいます。
この場合には、給与明細上、保険料が控除されている旨の記載があるため、給与明細から保険加入の事実を知ることができます。
(6)社内積立・財形貯蓄等積立金に関する資料
勤務先で財形貯蓄等の積み立てを行っているときは、その積立額がわかる資料です。
積立を行っているかどうか分からない方は、例えば、給与明細を確認すると、同明細に積立金が記載されていることがありますので、ご確認ください。
(7)有価証券に関する資料
株式、社債等の有価証券を保有している場合には、その評価額・種類・取得数等の分かる資料となります。
また、ゴルフ会員権を保有しているときにも、同様の資料となります。
(8)自動車・バイクに関する資料
自動車やバイクを保有している場合には、自動車検査証又は登録事項証明書などです。
5 その他
以上にあげた資料は、よく準備を依頼することが多いものであり、必要に応じてほかにも資料を準備頂くことがあります。
また、準備頂いた資料を検討するなかで、更に資料を準備していただく必要があります。
破産に必要な資料の中には弁護士では取得できないもの(例:給与明細や源泉徴収票)も多く含まれておりますので、円滑な破産ができるかは依頼者の協力にかかっているといっても過言ではありません。
なお、ご依頼初期の時点で、全ての資料を準備できる方はほとんどいませんので、御依頼頂く場合には、スケジュールを策定のうえ、ご準備をお願いしています。
6 破産手続費用
相談者が準備しなければならない資料ではありませんが、破産申立てに必要な費用があります。詳細は、こちらをご確認してください。