インターネットで労働トラブルなどと検索すると「労働審判」という検索結果が表示されることが多いと思います。
例えば解雇・雇止め・賃金未払い・残業代未払いなどの労働関係のトラブルについては、労働審判手続を利用することができます。
ここでは、労働審判について、その概略を解説します。
目次
【記事のポイント】
✓裁判所で行う労働審判手続は、労働トラブルについて、原則として3回以内に審理を終結し、紛争の解決を図ろうとする手続です。
✓労働審判手続は、解雇や雇止めをされたときに労働者としての地位の確認を求めたい場合や、未払賃金や未払残業代を求めたい場合などに利用できます。
✓論点が複雑など早期の解決が見込めないときには、労働審判手続の利用には適さず、通常の民事訴訟手続を利用することが考えられます。
✓労働審判手続により円滑に労働トラブルを解決するためには専門家による関与が必要です。
1. 労働審判手続とは
労働審判手続とは、解雇の有効性や賃金不払など、個々の労働者と雇用主である会社との間の労働関係のトラブルを解決するための非公開の手続です。
労働審判手続には、主に次のような特徴があるものとされています。
特 徴 | 概 要 | |
---|---|---|
1 | 労働事件の専門家の関与が関与する手続であること | 裁判官1名と労働審判員2名で構成する労働審判員会が労働審判手続を行うこととなります。 労働審判員とは、労使双方の実情や知識・経験を有する者の中から選任されえて、中立・公正な立場で、審理や判断に関与するものとされます。 |
2 | 迅速な処理を目指した手続できあること | 原則として3回以内の期日で審理を終結し、紛争の解決が図られます。 そのため、審理が長期化しやすい労働訴訟よりも早期の解決が期待できます。 |
3 | 実情に即した柔軟な解決が可能な手続であること | 労働審判手続では、一般に、まず話し合いによる解決である調停が行われ、これができないときには、裁判所が労働審判という形で結論を示すこととなります。 |
4 | 異議申立てによる労働訴訟へ移行する可能性がある手続であること | 特徴3にある労働審判がなされた場合、これに不服のある当事者は一定期間内に限り異議申立てができます。 これにより、労働審判はその効力を失い、労働訴訟手続に移行することとなります。 なお、調停が成立したときには、双方納得の上での解決であることから訴訟手続に移行することはありません。 |
2. 労働審判手続の主な流れ
労働審判手続は、裁判所に対する労働審判の申立てにより始まります。
申立てを行う裁判所はどの裁判所でもよいものではなく、申立てを行うことのできる裁判所が決まっています。
つまり、労働審判手続の申立ては、相手方の住所、営業所及び事務所の所在地や、労働者が働いている(若しくは最後に働いていた)事業所の所在地などを担当している地方裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所のいずれかに対して行います。
簡易裁判所では取り扱っていません。
例えば、23区内にある職場で働いていた方が労働審判の申立てを行おうとするときには、霞が関に所在する東京地方裁判所に対して申立てを行うことが考えられます。
管轄の地方裁判所に申立てを行うと、裁判所に提出をした申立書等一式が相手方会社に対して送付されて、相手方会社が労働審判の申立てがあった事実を知ることとなります。
相手方は、申立書に対する反論を記載した答弁書等を第1回労働審判期日までに提出をし、申立人としてはこの答弁書等に対する対応を行うこととなります。
労働審判期日では裁判官1名と労働審判員2名で構成する労働審判員会が手続を主催します(前記特徴1)。
審判期日での口頭でのやりとりや書面の提出等を原則として3回以内の期日内に行うこととなります(前記特徴2)が、早期に裁判所の心証が形成されるのが通常であるため、積極的に主張・立証を行っていく必要があります。
労働審判手続では、通常、進行に応じて、裁判所の心証が双方に開示されて解決案が示されるなど調停成立に向けた試みが裁判所により行われます(前記特徴3)。
その結果、調停が成立すれば労働審判手続は調停成立により終了となります。
もっとも、調停が当事者に受け入れられないときには、裁判所が労働審判という形で一定の解決を示すのが通常です。
この内容について、双方当事者に不服がないときには、一定期間経過により審判が確定します。
反対に、いずれかの当事者に審判内容に対する不服があり、所定の期間内に異議の申立てが適法になされたときには審判はその効力を失い、民事訴訟手続へと移行します(前記特徴4)。
民事訴訟手続では、労働審判に関与した裁判官等とは別の裁判官が担当しますので、労働審判における心証は引き継がれないこととなります。
3. どのような労働トラブルが労働審判の対象となるのか
労働審判手続とは、以上のようなものですが、その対象となるのは、例えば、解雇や雇止めをされたものの不当であると考えているため労働者としての地位の確認を求めたい、不払いとなっている賃金や残業代を求めたいといった場合などの個々の労働者と雇用主(会社)との間に生じた民事紛争です。
4. 労働審判手続の利用が適さないケース
労働審判手続は、原則として3回以内の期日で審理を終結し、紛争の解決を図る手続です。
そのため、論点が複雑な場合など、3回以内の期日において解決するのが困難であると見込まれるトラブルは、労働審判手続の利用に適さないものと考えられます。
このような労働審判手続の利用に適さないケースについては、例えば、審理の回数に制限のない通常の民事訴訟手続を利用することが考えられます。
5. 労働審判手続の申立てに必要な資料
必要となる資料は個別の事情に応じて異なりますが、例えば、解雇の効力を争う地位確認の労働審判手続においては、会社の発行する解雇の理由を記載した書面(例:解雇理由書)、雇用契約書、就業規則などが考えられます。
また、残業代請求の労働審判手続においては、雇用契約書や給与明細のほか、実労働時間を把握するための資料(例:タイムカード)などが考えられます。
6. 労働審判と労働訴訟との違い
労働訴訟とは通常の民事訴訟を指しますが、労働審判手続との違いについては、主に次の点が挙げられます。
労働審判手続は、原則として3回以内の審理により迅速に解決を図る手続です。
他方、労働訴訟とは、通常の民事訴訟手続を利用するもので、審理の回数に制限はなく、充実した審理が期待できます。
そのため、通常は、労働審判手続の方が裁判所から一定の解決案が示されるまでの期間が短いことから、労働トラブルが早く解決する可能性があるといえます。
また、労働審判手続は非訟事件であり手続の非公開が原則であるのに対し、労働訴訟は訴訟事件であり手続の公開が原則です。
7. あっせん手続との違い
労働トラブルを解決する手続として、労働審判や労働訴訟のほかに、「あっせん手続」があります。
裁判所が主催する手続ではなく、都道府県の労働局に設置された「紛争調整委員会」が行う手続です。
これは、「あっせん委員」が、当事者双方の主張をもとに、和解案を提示するなどして話し合いを促すもので、話し合いがまとまれば、合意書が作成されます。
もっとも、手続は原則として1回であり、相手方の出席が任意であるほか、話し合いがまとまらなかったときには手続が打ち切りとなり、労働審判や労働訴訟におけるように一定の結論が示されることはありません。
そのため、最終的な解決を獲得したいというような場合には、適さないものといえます。
8. 弁護士への相談について
繰り返しになりますが、労働審判手続は、原則として3回以内の期日で審理が終わるため、申立ての段階から十分な準備をする必要があります。
また、第1回労働審判期日前までには、申立人の主張に対する相手方会社の答弁書が提出されていることから、その答弁書に対する対応を第1回期日前までに的確に行う必要があるなど、裁判手続に通じていない方では十分な対応が難しい面があります。
このほか、そもそも労働審判手続を利用することがふさわしいトラブルであるかどうかを検討する必要もあります。
仮に、労働審判手続を利用することがふさわしくないトラブルであったときには、時間が無駄になってしまうおそれがあります。
これらの点から労働審判の利用をお考えの方については、弁護士へのご依頼をお勧めしております。
なお、当事務所における主な費用は次のとおりです。
御依頼事項 | 着手金 | 報酬金 |
---|---|---|
労働審判 | 30万円~ | 経済的利益に応じた金額(注3ご参照のこと) |
注2. 上記のほか、裁判所に納付する実費等が必要となります。
注3. 経済的利益に応じた金額とは、経済的利益300万円以下の部分は16%、300万円を超えて3000万円以下の部分は10%、3000万円を超える部分は6%が基本となります。なお、経済的利益とは、相手方から受領することになった金銭等の財産の時価と、相手方による金銭等の支払請求を減額し得た場合の当該減額部分の時価との合計額をいいます。