遺産分割を行う場合には、特定された遺産の分け方(分割方法)を、話し合いなどにより決める必要があります。
それでは、遺産の分割方法にはどのような方法があるでしょうか。ここでは、「遺産の分割方法」について、その概略を解説します。
目次
1 4つの分割方法とは
遺産分割における具体的な分割方法は、次のように、①現物分割、②代償分割、③換価分割及び④共有分割があります。
【4つの分割方法】
分割方法 | 概要 |
現物分割 | 遺産について、その性質を変えることなく分割する方法 |
代償分割 | 一部の相続人が自身の法定相続分を超える額の遺産を取得したうえで、他の相続人に対する代償金を負担する方法 |
換価分割 | 遺産を売却等により換金したうえで、売却費用等を控除した残金を分配する方法 |
共有分割 | 遺産を相続人間の共有取得とする方法 |
2 4つの分割方法の適用例:不動産
戸建住宅が遺産であった場合を例に、4つの分割方法を確認すると、次のとおりです。
(1)①現物分割
建物を現実に分割することはできませんので、上記例では現物分割という選択肢の可能性は非常に小さいものと想定されます。
なお、不動産が更地であれば、これを分筆することで現物分割とすることも考えられます。
(2)②代償分割
例えば、被相続人である母所有の自宅に、相続人である子3人のうち1名が同居して生活を行っていたような場合において、当該子1名が不動産の取得を希望するようなときに考えられる分け方です。
このようなときには、当該子1名が代償金を支払うことで、自宅を単独所有することが考えられます。
(3)③換価分割
共同相続人間で協力をして不動産を売却し、売却費用を控除した残金を分けるという方法です。
上記の例でいえば、相続人全員で、戸建住宅を売却し、不動産業者の仲介手数料等を考慮した残金を相続分に応じて分けることとなります。
(4)④共有分割
遺産を相続人間の共有取得とする方法です。
例えば、戸建住宅を相続人である3人の子どもが3分の1ずつ共有することです。
3 4つの分割方法の検討順序
基本的には、①現物分割→②代償分割→③換価分割→④共有分割の順に検討されることとなります。
以下では、調停と審判について更に説明をします。
(1)調停手続での分割方法の優劣
4つの分割方法の検討順序は上記のとおりですが、あくまで話し合いである以上、相続人全員が合意すれば、上記順序にこだわることなく、分割方法を決めることができます。
そのため、①現物分割や②代償分割を検討することなく、③換価分割を選択することもできますし、①~③を検討することなく④共有分割を選択することもできます。
(2)審判手続での分割方法の優劣
調停手続とは異なり、裁判官が遺産の分割方法を決定する審判手続では、上記の検討順序での優劣で分割方法が検討されることとなります。ただし、①現物分割と②代償分割との間にはほとんど差がないものと考えられています。
そのため、あくまで話し合いである調停手続は別として、審判手続では当事者は分割方法を選択することはできず、希望を述べることができるにとどまります。
4 代償分割の場合の注意点:調停手続と審判手続との差異
代償分割とは、例えば、相続分が2分の1の相続人(相続人は2人)が唯一の遺産である4000万の不動産の全てを取得する場合、その代償として2000万円を他の相続人に支払う方法です。
この代償金の支払方法について調停手続と審判手続とで差異が生じます。
審判手続では、裁判官により、確定された評価額と具体的相続分をもとに代償金額が算定されたうえ、代償金の「即時一括払い」が命じられることとなります。
この審判を行う上で、裁判官が命じる予定の代償金額を支払うことのできる能力があることを証明する資料(例:残高証明書、通帳の写し、融資証明など)の提出が求められ、資力が証明できないときには代償分割を行う旨の審判はなされないこととなります。上記の例では、不動産を取得する相続人が2000万円をすぐに支払えることを証明する資料が必要となります。
他方、調停手続では、代償金を「即時一括払い」する資力があることの証明書の提出までは必須ではない上(場合によっては求められることもあります。)、代償額も相続人間の合意する金額でよいほか、支払時期や分割払などの支払方法も合意により決めることができます。
そのため、代償金を「即時一括払い」する資力のない相続人は、他の事項で多少の譲歩をしてでも調停で合意することを目指すこととなります。
(代償分割における調停手続と審判手続との差異)
調停手続 | 審判手続 | |
1 代償額 | 合意により定める | 裁判官が決定 |
2 支払時期 | 即時払い | |
3 分割払の可否 | 一括払い(分割は不可) | |
4 資力証明 | 必須ではない | 必要 |
5 換価分割の場合の注意点:調停手続と審判手続との差異
換価分割とは、例えば、遺産である土地を売却等により換価し、費用を控除した残金を分ける方法です。
この換価分割についても調停手続と審判手続とで差異が生じます。
審判手続で換価分割が命じられたときには、売却等は「地方裁判所」の強制競売手続を通じて、実現することとなります(審判でいわゆる任意売却を命じることはできません。)。そのため、別途の手続が必要となり、予納金等の費用が必要となるほか、市場価格よりも低額で売買が成立する可能性が高いといえます。もっとも、審判で換価分割が命じられても、相続人全員が合意して協力することで任意売却をすることも可能ですが、調停から審判に移行していることが前提となっていることを考慮すると、この協力を得ることが難しいことも想定されます。
他方、調停手続で③換価分割を選択するときには、売却期間、誰が売却手続を行うのか(それぞれが売却手続を担うときには売却先の決定方法)などの取り決めを行うのが通常です。いわゆる任意売却となります。
6 不動産について共有分割を選択する場合の注意点
共有分割とは、例えば、戸建住宅を相続人である3人の子どもが3分の1ずつ共有することです。
この分割方法を選択したときには、次のような課題が生じます。
つまり、共有者の一人は他の共有者に対して、共有物の分割請求をしたり、分割を求める旨の共有物分割請求訴訟を裁判所に提起することもできるという課題です(共有物分割請求についてはこちらの記事をご確認ください)。
上記の戸建住宅が共有になった例において、一人が住宅に居住し、他の二人が別の住宅に居住していたようなときには、他の二人からすると、自分の持ち物について一人が住んでおり、お金で清算をしたいと感じることがあります。
こうした場合に、共有物の分割請求等がなされることがあります。そのため、遺産を共有にしただけでは抜本的な解決とはならず、問題の先送りとなってしまいます。
調停手続で④共有分割を合意するときには、このような課題があることを考慮して、意思決定をする必要があります。
審判手続では、このような課題があることから、分割方法の検討順序としては劣位に考えられていますし、相続人全員が共有分割とすることについて異議がないような例外的な場合に限って審判で共有分割が命じられることとなります。
7 まとめ
遺産分割は、その分割方法一つをみても、複雑な問題があります。そのため、どのような選択をするのが最善であるのかについて客観的なアドバイスを踏まえることが重要であるといえます。