相続が発生したとき、その相続人たちの話し合いにより遺産の分け方が決まらなかったときには、家庭裁判所に対して、遺産分割調停の申立てを行い、遺産分割協議の成立を目指すことが通常です。
ここでは、この遺産分割調停とはどのようなもので、どのように進むのか、その概略を解説します。
目次
【主なチェックポイント】
✓遺産分割調停とは、遺産の分け方に関する話し合いを行う手続で、家庭裁判所において行われます。
✓実際の調停は、遺産分割に関するテーマ毎に順次協議・決定していこうとする段階的な進行がなされています。
✓遺産分割調停が不成立となったときには、審判手続(裁判官が一定の判断を示す手続)へと移行することとなります。
1. 遺産分割調停とは
そもそも遺産分割調停における「調停」とは、どのようなものでしょうか。
調停とは、裁判所において、調停委員を通じて、特定のテーマについて話し合いを行っていく手続となります。
調停期日では、調停委員が双方から事情を聴きながら手続きが進められます。
具体的には、まず調停員が申立人側から事情を聴き、次いで申立人側から聞いた事情をもとに相手方側から事情を聴き、順次これを繰り返していくといった具合です。
調停での話し合いの結果、合意が成立したときには、調停成立となります。
この話し合いのテーマが遺産の分け方に関するものである場合が、遺産分割調停となります。
あくまで話し合いが前提の手続となりますので、相手方が調停に出席しないときには、調停は不成立となってしまいます。
2. 遺産分割調停を行う裁判所(管轄)
遺産分割調停は、全国にあるどの裁判所においても利用できるのではなく、調停の申立て先が定められています(管轄)。
具体的には、調停の申立てをするのは、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定めた家庭裁判所となります。
例えば、共同相続人が兄弟2名であり、兄が西国分寺居住の弟に対して遺産分割調停を行うときには、国分寺市を管轄する家庭裁判所である東京家庭裁判所立川支部宛てに、遺産分割調停の申し立てを行うこととなります。
弟が、三鷹市、府中市、立川市、国立市、昭島市居住の場合であっても、同様です。
3. 遺産分割調停に必要な資料
遺産分割調停を行うためには、調停申立書に必要事項を記載の上、該当の家庭裁判所に提出をする必要がありますが、申立書関係の書類のほかに、添付資料として様々な資料の提出が求められています。
主なものとして、次の資料が挙げられます(詳細は申立て先の家庭裁判所のHPなどをご確認ください)。
資料内容 | 備考 | ||
---|---|---|---|
戸籍関係 | ① | 戸籍謄本 | 相続人全員の分 |
② | 戸籍謄本(除籍・原戸籍) | 亡くなった方の分 | |
③ | 住民票(又は戸籍の附票) | 相続人全員の分 | |
④ | 住民票除票(又は戸籍の附票) | 亡くなった方の分 | |
遺産関係 | ⅰ | 登記事項証明書 | 土地や建物 |
ⅱ | 固定資産評価証明書 | 土地や建物 | |
ⅲ | 借地権・借家権を証する文書 | ||
ⅳ | 預貯金残高証明書又は通帳等 | ||
ⅴ | 株式、社債、投資信託、保険、出資金等の内容を示す資料 | ||
ⅵ | (あれば)遺言書 |
4. 遺産分割調停の進め方(段階的進行モデル)
実際の遺産分割調停はどのように進むのでしょうか。
東京家庭裁判所では、その進め方について、「段階的進行モデル」が採用されています。
遺産分割に関しては、多くの事項が複雑に絡み合っていることが多く、無秩序に調停を実施したのでは効率的な進行が図れないことから、テーマ毎に順次協議・決定していこうとする進行です。
その主な進行フェーズは次のとおりです。
(1)初期段階
遺産分割の前提事項となる「相続人の範囲」、「遺言の有無とその効力」、「遺産の範囲」などについて、整理がなされます。
具体的には、遺産分割を話し合う当事者は誰であるのか(=「相続人の範囲」)、遺言があるのか・効力がどうであるのか(=「遺言の有無とその効力」)、どのような財産が遺産であり現状はどうなのか(=「遺産の範囲」)などといった事項について、整理がなされていきます。
(2)中期段階
初期段階での整理が整ってくると、「特別受益」「寄与分」の主張整理のほか、確認された「遺産の評価」や「具体的相続分の計算」について整理がなされることとなります。
このうち「遺産の評価」とは、例えば遺産に不動産が含まれているときには、その評価額の確認がされることとなります。
その結果、不動産を単独で取得することを希望する相続人は確認された評価額に相当する代償金を支払うことで、その所有権を取得することが考えられます。
なお、「特別受益」とは、共同相続人のうちに、被相続人から生計の資本として贈与を受けるなどした相続人がいる場合において、その贈与を相続財産に持ち戻して具体的な相続分を計算することで、相続人間の公平を図る制度です。
また、「寄与分」とは、共同相続人のうちに、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者がいる場合において、その寄与に応じた額を考慮して具体的な相続分を計算することで、相続人間の公平を図る制度です。
(3)後期段階
中期段階までの整理を踏まえて、「具体的な分割方法」について協議をしていく段階となります。
その結果、相続人間で合意が成立するときには、遺産分割調停が成立となります。
この調停が成立したときには、裁判所で確認された合意内容が書面化されて、後日裁判所からその書面を取得することとなります。
この書面をもとに、不動産の相続登記といった名義変更や預貯金の引き下ろしなどを実行していくこととなります。
5. 遺産分割が話し合いで遺産分割がまとまらなかったとき
遺産分割調停を進めても、相続人間の主張の対立が埋まらず、調停が不成立となることもあります。
この場合には、「審判」手続へと移行することとなります。
この「審判」とは、相続人の主張を踏まえて、裁判官が遺産分割に関する事項について、一定の判断を示していく手続となります。