最近では、亡くなったときに身近な親族がいないというケースが増えています。
仮に、逝去された方(被相続人)に相続人がいない場合、遺産は誰が取得するのでしょうか。
ここでは、相続人がいない場合の手続について解説をします。
目次
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✓法定相続人がいない場合には、相続財産に関する利害関係人は、家庭裁判所に対して、相続財産清算人選任の申立を行う。
✓法定相続人がいない場合において、被相続人と特別の関係を有する者は、特別縁故者であることを主張して、家庭裁判所が相当と認める範囲で、相続財産清算人による清算後の相続財産を受け取ることができる。
✓特別縁故者であることを主張するためには、相続財産清算人の選任が必要
1. 法定相続人とは
ある方が亡くなった場合、その相続人の範囲は民法という法律で定められています。
この法定相続人は、被相続人の配偶者は常に相続人となる(890条)ことを前提として、次の順位で定められています。
- 第1順位:被相続人の子
- 第2順位:被相続人の直系尊属
- 第3順位:被相続人の兄弟姉妹
なお、被相続人の子や兄弟姉妹が被相続人より先に死亡した場合などには、その者の子が代襲して相続人となります(直系卑属であることが必要です。)。
2. 法定相続人がいない場合の例とは
法定相続人がいない場合としては、次のような例が考えられます。
- 両親及び祖父母が既に他界しており、一人っ子である未婚男性が死亡した場合(養子縁組を行うなどして子がいない場合を想定)
- 全ての法定相続人が相続放棄をおこなった場合
3. 遺言がある場合
法定相続人がいない場合であっても、遺言を遺し、その中で遺産をわたす旨が定められているときには、その方が取得することとなります。
そのため、身寄りのない方が生前に世話になった人や愛着のある自治体に渡したいということであれば、遺言を作成することが考えられます。
ここでは詳細には触れませんが、遺言において、遺言内容を実現するために手続を行う遺言執行者が定められていることがあります。
4. 遺言がない場合
(1)相続財産清算人
法定相続人のあることが明らかでなく、遺言もない場合には、相続財産は相続財産法人となります。
もっとも、法人とはいっても、当然にはその代表者がいるわけではありませんので、利害関係人等の請求により、家庭裁判所が「相続財産清算人」を選任するものとされています。
この相続財産清算人は、被相続人の財産調査を行ったうえ、被相続人の債権者等に対してその債務を支払うなどして清算を行い、清算後残った財産を国庫に帰属させるなどといった業務を行うことになります。
(2)特別縁故者
家庭裁判所は、相続財産清算人の選任のほか、被相続人の相続人がいる場合には申し出るよう「相続人捜索の公告」をします。
この公告期間内に相続人が申し出なかった場合、相続人不存在が確定することとなります。
このようにして相続人不存在が確定した場合、相続財産清算人は清算後に残った財産を国庫に帰属させますが、「特別縁故者」がいる場合には、その者に引き継がれることもあります。
特別縁故者とは、被相続人に法定相続人がいない場合に、被相続人と特別な関係があったことを理由に上記清算後に残った財産を家庭裁判所が認める範囲で受け取る権利を有する者のことです。
もっとも、どのような関係でもよいのではなく、例えば「被相続人と生計を同じくしていた者」、「被相続人の療養看護に努めた者」など「被相続人と特別の縁故があった」ことが必要であり、家庭裁判所において個別具体的に判断されることになります(民法958条の2)。
具体的には、特別縁故者であることを主張する者は、上記の相続人不存在が確定してから、3か月以内に特別縁故者であることを理由とした財産分与の申し立てをする必要があります。
〇民法
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第958条の2前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2略
(3)小括
以上の流れをまとめると、①相続人の存否が不明であることから家庭裁判所により相続財産清算人が選任された場合において、②相続人捜索の公告で定められた期間内に相続人であると主張する者がでなかったときには、③相続財産清算人が被相続人の債務を支払うなどして相続債務の清算を行った後、④家庭裁判所は、被相続人と特別の縁故のあった者の請求によって、相当と認めるときは、その者に、清算後残った相続財産の全部又は一部を与えることができます。
5. 最終的には国庫に帰属する
法定相続人がおらず、遺言もなく、特別縁故者もいない場合には、その遺産は国庫(国)に帰属することとなります。
また、特別縁故者がいた場合であっても、遺産の全額の取得が認められないときには、残余の部分はやはり国庫(国)に帰属することとなります。
6. まとめ:法定相続人がいない場合の対応
法定相続人がいないものの、自身の財産を渡したい人物等がある場合には、まずは遺言を作成することが考えられます。
また、法定相続人がいない方と特別の関係がある場合には、家庭裁判所に相続財産清算人選任の申立てを行い、所定の期間内に特別縁故者として認めてもらうための申立を行う必要があります。
いずれについても、専門的な知識を要することから弁護士に相談されることをお勧めしています。